南部鉄器をご存知でしょうか。
先のワールドカップで活躍していた田中碧(たなかあお)選手が愛用していることでも話題になりました。
田中選手が鉄分摂取のために南部鉄器を使い始め、「数値が改善された」と語る姿が放送されると、SNSなどで大きな反響がありました。
鉄の調理器具は重くて錆びやすいことから敬遠されがちでしたが、南部鉄器の存在により見直されています。
そんな南部鉄器の魅力を効果や使い方とともにご紹介します。
南部鉄器とは
南部鉄器とは、岩手県南部鉄器協同組合連合会の加盟業者によって作られている鉄鋳物の総称です。
鉄鋳物とは、溶かした鉄を鋳型に流して形を作る技法で、主に茶釜や急須、鉄瓶や鍋などの生活雑器が作られています。
1975年には伝統工芸品にも指定されています。
南部鉄器の産地は盛岡市と奥州市です。
盛岡の鉄器は17世紀初め、南部藩主が京都から釜師を招いて茶の湯釜を作らせたのが始まりとされ、奥州の鉄器は平安時代末期、藤原清衡が近江国から鉄器職人を招き、武具などを作らせたのが始まりとされています。
現在ではカラフルな色使いでスタイリッシュなデザインの急須が制作され、ヨーロッパで人気となっています。
また、中国茶などがおいしくなると言われていることから、中国では南部鉄瓶(南部鉄器の中のやかんタイプ)が人気で、2010年には上海万国博覧会にも出展しました。
昔ながらのやかんや急須のほか、フライパンや鍋敷き、キャンドルスタンドなど、現代の暮らしにも取り入れやすい製品も作られています。
南部鉄器の中でも有名なのが「南部鉄瓶」です。
丸形、平丸形、なつめ丸型、南部型などの様々な造形があり、桜、菊、牡丹、松、竹、馬や亀など多様な文様のものがあります。
代表的な文様は表面に丸いつぶつぶの突起のある「あられ」です。
球状の鉄瓶に紋様が美しく並ぶように、あえて上にいくにしたがい突起は小さくなるように打たれています。
あられの形、深さ、間隔などは職人によってそれぞれ違います。
南部鉄器を使うと良いこと
田中選手も鉄分摂取のために南部鉄器を使用していると言っていましたが、実際に南部鉄器を使うことで何が良いのかをご紹介します。
南部鉄器を使用すると、水中のカルキや鉄が吸着してくれるため、沸かしたお湯がまろやかで口あたりが良くなります。
また、鉄器から鉄が溶け出すことで、鉄分を摂取することができます。
鉄分には大きく分けて2種類の鉄があります。
「二価鉄(ヘム鉄) / Fe2+」と「三価鉄(非ヘム鉄) / Fe3+」という鉄で、二価鉄は三価鉄に比べて5~6倍も身体に吸収されやすい鉄です。
二価鉄は動物性の食品に多く、摂取するとそのまま吸収されるのに対して、三価鉄は植物製の食品に多く含まれ、吸収されるにはビタミンCや消化酵素によって二価鉄に還元されてから体内へ吸収されます。
南部鉄器は溶出する鉄分の内80~95%が吸収されやすい二価鉄となっており、継続的な使用で貧血予防・改善に効果があることが明らかになっています。
鉄分を毎日欠かさず摂りたいという方や、生活習慣を改善したいという方は、ぜひ南部鉄器のある生活を始めてみてはいかがでしょうか。
南部鉄器を長く使うためには
南部鉄器の初めてご使用になる時は2つの手順を踏む必要があります。
長く使い続けるために必要かつ大事な手順になります。
鉄瓶を例にするとわかりやすいため、ここでは南部鉄瓶でのやり方をお伝えします。
- 「鉄瓶の容量の8割程度まで水を入れては捨てる」という作業を、3~5回程度、繰り返してください。
内部に付着した異物を洗い流すための作業ですが、この時に、内部をたわしで擦ったり、指で擦ったりなどは、決してしないでください。 - 「お湯を沸かし、沸いたら捨てる」という作業を、2~3回繰り返してください。
沸かしたお湯が無色になれば、飲用することができます。
鉄瓶がその良さを発揮し始めるのに、約2週間掛かります。
この期間中は、鉄瓶を毎日ご使用することをおすすめします。
基本的には「内部は触らず、濡れたまま放置しない」こと、これだけです。
ご使用後は以下の方法を参考に、鉄瓶をしっかり乾燥させてください。
- 鉄瓶が熱いうちに内部を空にし、蓋を外してください。
そうすることで、鉄瓶の内部が余熱によって乾燥していきます。
蓋も内側を上にしておくことで、同様に乾燥していきます。 - 鉄瓶を弱火で空焚きして乾かす方法もあります。
この時、必要以上に加熱し過ぎると鉄瓶内部に施された金気止めの酸化皮膜が損傷し、錆や金気の発生原因となりますので、ご注意ください。
金気止めとは古来より伝わる伝統技法で、鋳型から取り出した鉄瓶を炭火で約900度の温度で真っ赤になるまで焼く作業です。
この作業により鉄瓶の外側と内側に錆止めの役割を果たす酸化被膜が付きます。 - 鉄瓶の外側は、乾いた布巾で拭いてください。
また、鉄瓶が熱いうちに煎茶を少し浸した布巾で鉄瓶の外側を時々拭いてあげると、次第に表面に独特の光沢が生まれてきます。
鉄瓶の内側は触らないでください。
先に挙げた通り、鉄瓶の内側には金気止めの酸化皮膜が施されており、この皮膜が損傷すると、錆や金気の発生原因となってしまうからです。
しつこいようですが、鉄瓶の内側や外側を洗剤で洗ったり、たわし等でこすったりなどは、絶対にしないでください。
南部鉄器の種類によって、保管の仕方や注意することは異なってくるものもありますので、購入したものに合わせて対応しましょう。
おわりに
南部鉄器についてご紹介しました。
沸かすだけで健康にも効果的なのはありがたいですね。
また、鉄分が摂取しやすくなるのは女性にはとても嬉しいのではないでしょうか。
今まで使ったことがない場合は、慣れるまでに時間がかかるかもしれませんが、伝統の技を感じながら南部鉄器の良さを味わってみてはいかがでしょうか。
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