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【ヒメゴト】元カノの別れの理由 2

5月。連休明け。

 

連休最終日に中学時代のほろ苦い記憶を思い出し、社会人にもなって、未だに過去の呪縛に囚われている自分に嫌気がさしたこの話の主人公、岡田昌昭(おかだまさあき)。

 

連休が明け、仕事という逃げ道をひた走る昌昭。果たして彼は何から逃げているのか?思い出の中の元カノ、麻優(まゆ)からか、それとも逃げていることにも気づいていない自分自身か?

 

ただ、昌昭は目の前の仕事をこなすことで、わずかばかりの充足感を得ることに集中していた。

 

「仕事に埋もれていれば、何事もなく日々が過ぎていく。こんな毎日をこれからも生きていくのだろう。」

 

そんなことを考えていた始業前、先輩の笠原さんから声をかけられた。

 

「岡田、おはよう。昨日は休みに資料頼んじゃって悪かったな。俺も急遽別の会社いくことになってさ」

 

「大丈夫ですよ。ってあれ?じゃあ明日は僕一人ですか?」

 

「そうなんだ。明日は別行動になるな。すまんがよろしく頼む。岡田が調べてくれた会社は、元々取引のある大手のグループ会社だから、すんなりシステムの導入決まると思うんだ。持参する資料にも目通したけど、問題なかったし。」

 

少し間が空いた。

 

「岡田ももう二年目だしな。良い経験になるよ」

 

「了解しました。頑張ってきます」

 

どんなに小さな仕事でも、任されるのは嫌いではなかった。自分が必要とされていると確認できるからだ。

 

だから、今回、営業を一人で任されたことは正直嬉しかった。

 

久しぶりに、部活をやっていた頃の感覚が戻ってきた。試合中に良いパスをもらった時のような。

 

【やる気】という忘れていたものを思い出した気がした。

 

「よし、プレゼンの資料もう一回確認するか」

 

意気揚々と資料を開く昌昭は、まだ次の日に訪れる出来事を想像もできていなかった。

 

翌日

 

「よし、いくか」

 

今日の訪問先までは家から1時間ほどかかる。東京の郊外にオフィスを構えているようだ。

 

電車を降り、オフィス街を歩いていくと、ガラス張りの建物が見えてきた。

 

「UMA mobil」という看板も確認できた。

 

店頭に近づいていくと、店内の様子がよく見える。入りやすい雰囲気だ。

 

お店自体はそんなに大きくないが、海外の車種を取り扱っているようで、見応えがすごい。自分があまり車に詳しくないことを思い出し、しまった!と思った。

 

「ここまできたら勢いでなんとかするしかない!」

 

と入り口前で背広を脱ぎ、店内へと入った。

 

受付で今日訪問予定の者だと告げると、ほどなくして応接間に通された。

 

しばらくすると、入り口の扉から、自分と同じ年齢くらいの、若い男性が入ってきて、こう言った。

 

「こんにちは。社長の佐藤です」

 

「今日は担当できそうな奴らがみんな出払ってて。私の方でお話聴かせてもらいますね」

 

資料を作っている時に見た顔だった。端正な顔立ちだったが、どこか女性らしい感じもあった。

 

長髪を後ろで結わえた、黒いスーツ姿。

 

身長は自分と同じくらいのはずだし、それほどガッチリした体格ではないのに、何かオーラのような、凄みを感じる。

 

僕の緊張は一気に高まった。

 

自分の背筋がこれ以上真っ直ぐになれないほどにピーンと張っている。

 

(まさか社長が出てくるとは…やっぱり若いな。それにしても…前にもどこかで会ったことがあるような気がする)

 

はっとして、あわてて立ち上がり、名刺を差し出す。

 

「◯✖️商事の岡田と申します」

 

「UMA mobilの佐藤です」

 

受け取った名刺には、「佐藤優麻」と書いてある。

見覚えのある文字列。

 

「岡田、まさあきさん?」

 

名前の読み方を聴かれ、

 

「あ、はい。そうです。本日はよろしくお願いします」

 

と答える。

 

こちらこそよろしく、と相槌を打つ佐藤社長は、じっと僕の名刺を眺めている。

 

少しの沈黙の後、僕から商談を切り出した。

 

「本日はお時間いただきありがとうございます。こちらがお問い合わせいただいたシステムの資料になります」

 

「あ、ああ。ありがとうございます」

 

佐藤社長は何か気になることがあるようだった。

 

(まずは雑談でアイスブレイクかな?)

 

「何か気になる点ありましたか?」

 

「あ、いえ」

 

と歯切れの悪い返事が返ってきたが、

 

「なんでもおっしゃってください」

 

と促す。

 

「岡田さん、年齢は?」

 

「24歳です。確か、社長も同い年でしたよね?」

 

「そうなんです。もしかしてなんですが、中学は△△中?」

 

「え?なんで知ってるんですか?」

 

「私も△△中なんです」

 

「え?」

 

同い年で同じ中学って…と記憶を辿ってみるが、男友達に「佐藤優麻」という名前はない。

 

その時、僕の頭にこれまでの人生で1番と言っていいほどの負荷がかかり、ひとつの結論を導き出した。

 

「……まさか、まゆ??」

 

「…そのまさかだよ、まさくん。久しぶりだね。元気だった?」

 

まさか。まゆが、男に??

 

この再会をきっかけに、自分の人生が大きく変わることになるとは、この時の僕は全く想像してもいなかった。

 

次回へつづく

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