ずっと追いかけてきた婚活が、終わりを告げた日。
片倉愛、アラサーにしてついに念願のパートナーを見つけるに至る。
BBQをして、再会を遂げた彼に、もう一度、神様は出会わせてくれた。
そして、わたしはそのラストチャンスに賭けた。
それまで一度もやってこなかったこと、自分から彼を飲みに誘ったのだ。
もう二度と、こんな奇跡は目の前に現れないだろう、そう思って。
その事実に心から感謝をしながらも、目まぐるしく日は流れて、いつからか、わたしは彼との同棲を始めた。
「おはよう、昨日はどこに行ってた?」
わたしの朝はいつも、ヨーグルトから始まる。
そして気合いを入れるときは、それにスクランブルエッグを加えて。
今日はご機嫌な朝なので、わたしはスクランブルエッグを綺麗に整えて、お気に入りの北欧食器に乗せていただきますをした。
いつもそこで彼が、美味しいコーヒーを淹れてくれる。
心地よい香りが漂ってきた。
「いい香り、、朝にはこのコーヒーがなくちゃね」
そう呟いているわたしを振り返って、彼は柔らかく微笑んで見せた。
「昨日は、新しい店舗の立ち上げ関係で、遅くまでミーティングをしてた」
「お、そういえば言ってたね、新店舗の話」
彼は新店舗の立ち上げに全てを注ぎこんでいる。それを知っているので、わたしは信じて見守りながら、わたしはわたしで多忙な毎日を送っていた。
それでも朝だけは、お互い時間を合わせて同じ時間に朝御飯を食べられるようにしている。
「あのさ、愛」
「なに?」
そう聞いたわたしに、彼は柔らかく言葉をかけた。
「そろそろ、する?結婚」
そこのコップ取って、というぐらいの気軽さでその言葉が降ってきたので、わたしはフリーズしてしまった。
「えーと」
「愛が仕事を頑張りたいのもわかる。
でも、こういうのって、タイミングが大事だろ」
戸惑っているわたしをよそに、彼はたたみかけるように言った。
「僕は、君の夢を一緒に叶えていきたい。
君が仕事で成功を収めることもそうだし、
君は以前僕に打ち明けてくれたね。
婚活に賭けていた時期のことを」
彼はゆっくりとコーヒーに口をつけた。
「僕は、結婚したいっていう君の夢も、一緒に叶えていきたいと思う。
もちろん、いろんな制約があるのは僕だってわかっているつもりだ。
お互い仕事が大事なタイプだからね。
それでも、一緒に挑戦してみたいんだ。
一緒に挑戦する価値があると信じているから」
彼のその言葉を聞いて、わたしはずっと心の中で自問自答していた考えに決着がついた気がした。
コーヒーを一口飲んでから、わたしは首を縦に振った。
「わかった。その挑戦、わたしも乗ったわ。
一緒に叶えよう、お互いの実現したかったものを」
彼は微笑んで、カチンとわたしのコーヒーカップと自分のコーヒーカップを当てた。
「これからも、よろしく!」
頑張ってきた婚活も仕事も、全部振り返って、何一つとして無駄なことなんてなかったんだと思える。
そう思えたのは、目の前の彼との出会いのおかげだ。
回り道をしたからこそ、大事にしたいものに気づけた。
わたしの人生はまだまだ続く。
この選択が吉とでるか、凶とでるかは、わたしたち次第。
新たな挑戦に胸を燃やしながら、わたしは2人で住むデザイナーズマンションの窓から見える美しい空と街並みを見下ろしていた。
何度転んでも、人生は転んだ分だけ面白くなる。
アラサー女子の奮闘記は、まだまだ続く。