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口より先に手を出すヤツはたいてい床上手2話

〜前回までのあらすじ〜
この物語は自信ナシ、友達・彼女なし、夜の営み経験なし、通称3Nの25歳の主人公山本翔太が巻き起こす、奇跡のファンタジーである!翔太の人生はとにかくパッとしない。
ありきたりとかではなく、面白さに欠けているのだ。
人生のピークを小学生で迎えてしまい、そこから先はチャレンジも何もしていない。
むしろ、小学生の頃から大した努力もしていないので、25年間楽な人生を送っている。
そのままで良い訳ないことは、本人が一番よく知っている。
だが、抜け出すきっかけも無ければ、自ら踏み出すこともない。
そんな中、会社の同僚である航平から、フットサルの誘いを受けた翔太。
普段はフットワークが重めだが、信頼している航平からの誘いは基本的に断らない。
その行動が思いもよらない結果を巻き起こす。
その前に、物語は翔太が人生のピークを迎えた12年前の夏にさかのぼる。

ー12年前の夏ー
夏祭りで好きな女の子とデート、男としては最高の瞬間である。
人生のピークにいた僕は、何をやってもできると思っていた。
勉強、スポーツ、小学生がモテる要素は全て兼ね備えている。
デートの相手は、幼なじみの志穂。
顔立ちははっきりとしていて、勉強もスポーツもできる、クラスの人気者だ。
何もかもが申し分がない。
「志穂と付き合えたら、幸せ過ぎて困るな。」
同時に、志穂に見合う男は自分しかいないと、本気で思っていた。
かなり、自意識が過剰である。
小学生だから許して欲しいという思いもあるが、さすがに酷い。
「志穂はどういう男を好きになるのかな。」
いるのが当たり前過ぎたから、一番大切なことに気付いていない。
そのことがいかに罪深いことか、僕はまだ知らない。
志穂とは保育園から同じだ。
田舎だから良くあることかもしれない。
志穂はその頃から天真爛漫だった。
よく笑い、よく遊ぶ元気な女の子だ。
「翔太くん、鬼ごっこしよう。」
志穂は足に自信があるから、自ら僕に勝負を挑むのである。
そうして、いつもかけっこして、いつも砂をいじって、気が付けばいつも日が暮れていた。
親が保育園に迎えに来るタイミングがいつも同じだったので、志穂と僕の両親は仲が良かった。
プライベートでも、顔を合わせる仲だ。
僕と志穂があまりにも共にする時間が長いので、よく母親が冗談でこう言っていた。
「翔太の将来のお嫁さんは、志穂ちゃんかしら。」
笑いごとだが、今考えると結構なパワーワードである。
母親の言葉に、志穂はいつも照れ隠しをしていた。
そんな志穂の姿を見るたびに、僕も照れ隠しをしていた。
小学校に上がると、クラス分けがあったが、運命の引き合わせか、志穂とは6年間、ずっと同じクラスだった。
小学校低学年の頃は、何も意識していなかったが、高学年になると流石に意識してしまう。
人間の成長過程で起こる現象のため、仕方ないが、当時を振り返ると全く自分をコントロールができていなかった。
僕は志穂のことが好きなまま、5年生に進級したある日、事件が起きた。
クラス発表の日、僕は小さくガッツポーズをした。
「やったー、また志穂と同じクラスだ。」
顔に出していないつもりだったが、鏡の前では嘘をつくことができない。
当時、最初の席順は名前の五十音順だったので、決まって僕の後ろの席は志穂だった。
「翔太、また志穂と同じクラスじゃん。」
「先生にお願いしているの?。」
志穂と9年間も一緒なため、知らないうちに名前を呼び捨て合う仲になっていた。
「そんな訳ないじゃん。」
そんなことができる訳がないが、その瞬間志穂と顔を合わすことができなかった。
だが、そんな2人の雰囲気は完全にクラスから浮いていた。
幼なじみとはいえ、周りからは2人が特別な関係にしか見えなかったのだ。
それを面白がって、複数のクラスメイトから口撃を受けた。
「翔太くんと志穂ちゃんって、付き合っているのー?。」
「保育園から、ずっと同じクラスだったんでしょー。」
「もう、キスとかしちゃったのー?。」
小学生が言うことだから、今となっては可愛いが、当時の自分たちにとっては、なかなかのものだった。
僕は上手に言い返すことができず、いつも防戦一方だった。
そんな中でも志穂は、明るく冗談混じりで返していた。
だが、その頃から僕と志穂の間で、見えない距離感を感じるようになった。
僕の気にしすぎかもしれないが、志穂に避けられている気すらした。
「楽しい学校生活が始まると思ったのに。」
「志穂は僕に気を遣っているのかな。」
自分の中で、答えを出せないままでいた。
情けない話だが、志穂の思いをずっと聞けないままでいた。
この未解決事件は6年生の夏まで持ち越すことになる。

ー夏祭り当日ー
夏休み直前の終業式、志穂を夏祭り誘ったが、気がつけば、夏祭り当日を迎えた。
一週間前から、ドキドキする日が続いた。
前日の夜はよく眠れなかった。
ベタな展開である。
「ついに、この日が来たか。」
僕にとって、この夏祭りのデートは、間違いなく人生で一番大切なイベントになる。
もしかしたら、これからの人生に何か影響をもたらすかもしれない。
それぐらい、重要なことだということを、始まる前から何となく察していた。
不思議と、ダメだったときのことを考えていなかった。
それは、今まで勉強やスポーツで上手くいき続けた自信から来るものではなかった。
「今日の僕、何か力が湧くな。」
特段モテてきた訳でもないし、何回もこういう経験を積んできた訳でもない。
ただひとつ分かるのは、今日決めないで、いつ決めるのだと心の中で誓っていることだ。
その思いが、全身を前に押している感覚があった。
「今の僕なら、行ける!」
万全の状態だった。
あとは、約束の時間に待ち合わせ場所へ行くだけ。
服装はいつも通りを選んだ。
夏祭りだから、気合いを入れて浴衣も選択肢にあったかもしれない。
志穂が浴衣を着ていくと言っていたら、選んでいただろう。
夕方になるにつれて、時計の針を見る回数が増えた。
待ち合わせ場所が家から近かったせいか、余計気にした。
約束の時間は18時だった。
待ち合わせ場所は家から徒歩5分もかからない。
だけど僕は、17時30分になった瞬間に家を飛び出した。
家にいることが、我慢できなかったのである。
「やっぱ、外の空気っていいな。」
勢いよく家を飛び出した僕は、約束の時間よりだいぶ早くついた。
待ち合わせ場所は、志穂の家からもそう遠くないので、5分前くらいに集合できると思っていた。
「さすがに、志穂はいないよな。」
と、思っていたら浴衣姿の人影があった。
綺麗で、可憐で、小学生とは思えないその上品な姿勢は、誰が見ても息をのむだろう、と僕は確信した。
保育園から約9年間の仲で、男子から人気があることは分かっていたが、今日以上の姿にお目にかかれたことはない。
その浴衣姿の人影は、僕を見るなり一言いった。
「翔太、遅いじゃん。」
「お、おう、すまん。」
別に待ち合わせ時間に遅れた訳でもないのに、謝った。
顔を合わせるとすぐ分かったが、化粧をしていた。
それも派手ではなく、ナチュラルに。
志穂の透明感が、より洗練されて伝わった。
家を飛び出したときから、胸の高揚感が止まらない。
「今日ほど、ドキドキしている日はないな。」
気付いたら、口に出していた。
あっ、と思ったが遅かった、志穂に聞かれていた。
志穂は僕の顔を見るなり、にっこりと笑ってこう言った。
「私もだよ。」
生まれてきて良かったと、心から思った。
改めて、僕は志穂のことが好きなんだと、胸に手を当ててそう思った。
ちょうちん屋台の明かりが、きれいにきれいに僕らを照らしている。
夏祭りは始まったばかり。
僕は勢いに任せて、志穂の手を握り、こう言った。
「今日は最高の1日にするね。」
志穂は嬉しそうにこう返した。
「お願い。」
そこからの時間は1分、1秒楽しかった。
僕の人生で忘れることはないだろう。
志穂が楽しんでいる姿を見るたびに、幸せな気持ちになった。
魔法が使えるなら、一生時間が止まって欲しいとお願いするだろう。
地元の夏祭りは、終わりが近付いてくると、花火を上げるのが恒例だった。
今、考えると夏祭りの主催者が、カップルを応援しているのかと思うくらい、全てが整っていた。
覚悟を決めないといけないことは分かっていたが、思うように体が動かない。
何故だろう、家を出た時は想いを伝えると決めていたはずだ。
しかし、思うように言葉が出ない。
志穂のあまりの尊さに触れてしまった僕は、今となって、嫌われることを恐れたのである。
うまくいかなかったらしよう、嫌われてしまったらどうしようと、やらない言い訳を心の中でしてしまっていた。
時間が止まるからといって、解決できる問題ではない。
そして気付いたら、志穂の家の前まで来ていた。
もう、チャンスはここしかない。
「志穂、今日は楽しかった?」
ありきたりなことしか言えない。
「うん、楽しかったよ。」
志穂は変わらず、笑顔でいた。
この後のことは、いくら後悔しても戻ってくる訳ではない。
ただ、社会人にもなってなお、ダメな自分を体現していた。
「また遊ぼうな。」
「うん。」
今の今まで楽しそうにしていた志穂の顔が、歪んでいくのが、暗い夜の中でも分かるくらいだった。
「翔太、またね。」
「おやすみ。」
家までの帰り道は、二度と思い出したくない。
悔しさと情けなさでいっぱいで、とにかくどこかへ逃げ出したかった。
歩いても歩いても、景色が変わらないように、いつもの家に帰り道が、とても遠くに感じた。
「僕は、何でこんなに、、」
あまりにも自分に落胆したので、涙すら出なかった。
「ただいまー。」
家につくと、何故か玄関に母親がいた。
表情を見た瞬間に、何か嫌な予感がした。
母親は僕にためらいながら、重い口を開いた。
「おかえり。」
「志穂ちゃんとさよならしてきた?」
母親の言葉の意味が分からなかった。
「え、どういうこと?」
「志穂ちゃん、両親の都合で東京へ引っ越すことになったの。」
僕は完全に思考がフリーズしてしまった。
「え、いつから?」
「まだ、夏休みは長いよ?」
母親は僕の顔を見るなり、重い口が余計開かなくなっていた。
「明日だって。」
「志穂ちゃんのお母さんから、今日連絡があったの。」
僕は玄関で、膝から崩れ落ちた。
楽しい夏休みは始まったばかりだったのに。

過去のお話はコチラ
〜第1話〜

 

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