【接続済み、セキュリティ保護あり】
画面に表示されている文字を見てホッとしました。
でも右下の数字を見てガッカリもしました。
だって01:25って深夜なのですから。
私は高田美紀。
女性にしては珍しいネットワークエンジニアです。
深夜だろうが呼ばれれば飛んでいきエラーを解決する、アンパンマンのような仕事です。
いや、アンパンマンのほうがよっぽどいいでしょう。
彼はジャムおじさんに新しい顔を作ってもらえば、ポーンと顔が笑顔になって元気100倍。
一方、私は「化粧して新しい顔になる」という時間を与えられません。
ー青白い制御室の照明を切り、鍵を閉めてエレベーターを待っている。
スッピンで何日くらい出動し続けてるんだろう…えっと…
月火水…と指を折って数えているとエレベーターが到着し「チン」という音でハッとしたと同時に曜日を数えるのが怖くなったので止めました。
ーエレベーターを降りビルを抜けると大手町に立ち並ぶビルやオレンジ色に足元を照らす電灯たちがやけに優しく感じられる。
仕事柄、太陽が沈むころに常駐先に就き、太陽が昇るころに寝床に就きます。
吸血鬼みたいなアンパンマンですかね。
うわぁ…怖い絵が思い浮かんだので、慌てて掻き消しました。
ー疲れ切った細くてしなやかな腕を、なんとか持ち上げタクシーを止める。
とはいえ仕事は好きですし、接続できなかったものが繋がる達成感は何度やってもハマります。
そんな私も独身のまま今年で27歳を迎えます。
何を考えてるんだかわからないような男性より、ネットワークの方がシンプルで楽しく感じてしまう。
気付いたらルーターと結婚してるんじゃないか。
そんな笑えないジョークを呟きながらタクシーに揺られて帰路につきました。
ー
これは私が仕事に捧げてきた半生から、出会いと挑戦の中で女性としての輝きを取り戻してきたシンデレラストーリーです。
ー
翌日、13日(金曜日)18時27分、大手町の某ビル
本来こんな時間に仕事を始めるのは、同じ夜勤シフトの看護師さんや、ジェイソンぐらいです。
世間様にとっては、花の金曜日のアフター6らしいですが、
私たちにとっては、ただの出勤するだけの18時だったのです。
ですが、私はなんとパソコンを閉じて帰ろうとしていました、
なぜなら、恐れ多くもこの私が世間様に相席して合コンに参加ささせていただくことになったからです!
先月から、大学の同級生である優子に誘ってもらっていた合コン当日がやってきたのです。
こういう飲み会はあんまり慣れてなくて、どういう話をしたらいいのかわかりません。
先週から動画サイトで「合コンでやってはいけないこと5選」とか「こんな女子には近づくな」といったノウハウを仕入れ始めていました。
焼け石に水とは分かっていますが、知識が無いよりはいいでしょう…きっと。
といった具合に自分を慰めながら、今日は定時近くになんとか仕事を終えました、
仕事終わりの時間をこうやって友達と使えるのは何ヶ月ぶりだろう?
いつもの癖で指を折って経った月を数えようとしましたが、
指を使うなら、数を数えるためでなく、マスカラを塗るために使おうと、思い留まりました。
「美紀はいつも予定合わないから久しぶりに会えるのも楽しみだね」と優子からのメッセージに喜ぶと同時に「早く会いたい」という気持ちが高まります。
さて、さっそく化粧の下地、ファンデ、アイシャドウと、何とか済ませマスカラを使おうとしたとき、
なんとマスカラが乾いて瀕死の状態に陥っていました、、!
なんとか伸ばそうと必死に出し入れしますがベタベタパサパサ、、どうしよう!
時間も無いし、ポソポソのマスカラをなんとか伸ばしていかなければ、、!
すったもんだしてるうちにあっという間に出なければ間に合わない時間になってしまったので、うまいことごまかして会社を出ました!
合コンの会場は、目的地まで2回も乗り換えが必要なので急ぎたいのですが、慣れないヒールが足を引っ張ります、、!
ふぅ、、なんとか電車に乗り込み時計を確認すると、、ギリギリセーフ。
一安心し、次の駅を確認すると、、ヤバい逆方向に乗っているじゃないですか、、しかも快速?!
あーなんてドジなんだ私は!
ただでさえギリギリな時間だっていうのに、、!
優子には遅れることをメッセージで伝え「気をつけてね!」という優しい返答に泣きそうになる。
そんな優しい優子の声も虚しく、向かいの窓に見えている駅のホームは全くもって止まってくれる気がない、容赦なく通り過ぎていく。
はぁ、、
いやいやボーっとなんかしてられない、早く挽回しなきゃ、、!
私の脳みそはパソコンのように再起動して、最短で着く経路を調べるモードに移行します。
そうこうしてるうちにようやく電車の扉が開いた!
犯人を追いかける刑事のようにホームへ飛び出し、右!左!と視線を動かし反対に向かうホームを目指す。
遅れている犯人は私なんだけど、、!
このとき私は時間ばかりが気になっていて、重大なミスを犯していたことを知る由もありませんでした。