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続・29歳、アラサー女子、リアルに婚活をするの巻 第4話

29歳片倉愛。
今日も婚活に励んでいる、題して逆バチェラーBBQの真っ只中。

現在29歳、30歳までのカウントダウンはもう始まっている。

そんな私に先日会社で頼れる後輩、田口からあった提案は、その名も「逆バチェラーBBQ飲み会」。

バチェラーという一人の容姿端麗、学歴や社会的地位も申し分ない魅力的な男性を巡り、女性たちが熱い戦いを繰り広げる物語、それがバチェラー。

そして、その逆をやろうというのが田口の提案である。

アラサーを前にして、自分にできることは、全部やる!と決めて田口にアラサーギリギリで婚活をお願いしての今。
もうお尻に火がついている。
30までに何とかして結婚すると決めて、オンライン飲み会も自分で企画して、自分の外見だってアップデートをして日々チャレンジを積み重ねている。

私がここでパートナーを選ぶ基準は間違いなく、
「結婚する気がある人」
そして願わくば
「私と生涯一緒にいたいと思っている人」

本当はプライベートで異性に自分から声をかけるのはとても緊張して心臓が持つかわからない。

でも、決めたのだ。
この1年で最高のパートナーをゲットするぞと決めたのだ。

さきほど話をした4つ年上の商社マン、坂口からの衝撃的な告白を受けて、私はまだ脳内が整理できずにいる。

彼には昔付き合っていた人がいて、その人と結婚をして籍を入れていた時期があった。
彼はその相手とは今は別居しているものの、まだ籍が残っている状態とのことだった。

私は一体誰に投票すればよいのだろう、と分からなくなってきた。
もう残り時間があと少しに迫っている。

広いマンションのルーフトップに風がぶわっと不意に吹いて、かぶっていた日よけの帽子が風にさらわれていった。

「あっ!」

風に舞って飛んでいこうとする帽子を、一人の人物がキャッチしてくれていた。

日がまぶしくて、彼の顏が見えない。
走り寄って近づいて、はっとした。

帽子をつかんだ彼は、私のメモで一番記載が少なかった人だった。
名前はたしか、正田誠。

誠、という名前は親から誠実な子に育つようにと受けたのだ、と説明を受けたのを覚えている。というか、それぐらいしか覚えていない。
正直、印象は薄かった。

今日は、彼とはほとんど話せていなかった。

正田がこちらを振り返って、数歩あゆみよって私に帽子をはい、と手渡してくれた。

この光景は、どこかで見た気がする。
遠い記憶のかなたで、同じように誰かに帽子をとってもらった記憶。
遠い遠い幼いころの記憶がよみがえって、私はなぜか泣きたいような、懐かしい気持ちになった。

大学生のときの、付き合っていた彼と何人かで行った海水浴場でやったBBQを思い出す。
あの記憶に違いない。

みんなでキャンピングカーにたくさんの食料をつんで、BBQセットも積んで持ってきたのは、はるか10年も前のことか。

彼とは4年付き合い、社会人になってから遠距離になって、自然消滅した。
私は、当時とにかく仕事がおもしろかったし、彼も新生活をとても楽しんでいた。
仕事に没頭していて、正直私には結婚など考えられないぐらい当時は自分の仕事に全力で集中していたし、自分のことで手一杯だった。

新生活にお互い忙しく、週に1日していたテレビ電話も、月に2~3回、月に1回、とどんどん頻度が減っていき、気づけば疎遠になっていた。

どちらから別れを切り出すでもなく、本当にきれいに自然消滅して、私の新しい生活の中に彼の痕跡はなくなっていった。

あの時の彼は、今どうしているだろう。
ふと頭によぎって、我に返る。

「ごめんなさい」

正田は呆然としている私を見て、ちょっとばかり笑って、左手に持ったレモンチューハイと右手に持った帽子を両方、私に渡してきた。

「飲んでください」

え?と訊き返した私に、彼は私の肩越しに机の上におかれた私のグラスの方に視線をやった。

私のグラスは、とうに空になっていた。

「さっきから、奥のソファのところでグラスも空になってるのに、ずっと同じところでもの思いにふけってるから。」

そう言って、からっと笑ってみせた彼の存在が、なんだか輝いて見えた。

「じゃ、一緒に飲みましょう」

私は帽子とレモンチューハイをありがたく受け取り、そのまま奥のソファ席に一緒に行った。

「あ、ちょっと待ってて」

私はふと大事なことを思い出して、冷蔵庫に回った。

ジーンズのポケットに入れた紙と、冷蔵庫に冷えたシャンパンとシャンパングラスを確認して、私は彼の元へ向かった。

ドキドキして、なんて切り出せばいいのかわからなくなっている自分がいた。

無言で私はシャンパンをあけて、それぞれのグラスにゴールドに輝く液体を注いだ。

「シャンパン、これは、今日いいなって思った人と飲もうと思って、おいておいたものなんです」

そう打ち明けて、グラスをそっと渡した。

正田は、ちょっとだけ驚いたような顏をして、そのあと少しだけ微笑んで見せた。

「じゃあ、素晴らしい今日に、乾杯」

そう言って、音を立てずに乾杯をし、シャンパンを一口、飲んだ。
やや辛い、シャンパンの味がした。

「今日は、きてくださってありがとう」

お礼を言ったら、彼はちょっとだけはにかんだように笑って、こう言った。

「俺は、こういうBBQの飲み会、10年ぶりなんだ」

「え?」

「そうそう、10年前に、サークルに参加してたんだけど、その時にいったのが最後。須磨海岸にね、当時僕は神戸の方に住んでいたから」

「え」

もう一度オウム返しに聞いて私ははっとした。

「それって、あの、須磨海岸?私も、神戸で…」

はっとして私は口をつぐんでしまった。

あの時、誰と一緒にいったんだったっけ。
彼氏とは同じサークルだったので、サークルのメンバー何人かで行ったBBQだった。
もしかして、そんなことはないと思ったけど、私は記憶をたどっていく

「今日、伝えようかどうか迷っていた。俺は、君に会うのが実は初対面じゃなかったんだ、この間」

BBQの煙が部屋にも薄く流れてきて、外でうわっと歓声があがっているのが聞こえる。

「実は、君と僕は、10年前、BBQを一緒にした。君は、覚えていないかもしれないけど。」

あの時のことは覚えている、途中で体調を崩して、彼氏ともほとんど一緒にいられなかったから。
その時に、一緒にいたのが、この人?

あの時途中で熱中症で倒れて、途中からの記憶がないのだけれど。

「あの時、君は熱中症で倒れた」

「うそ、本当にあの時、一緒だったの?」

私は心臓が飛び跳ねそうなぐらいびっくりしてしまった。

「私、あの時、途中から記憶がなくて。でも、誰かが近くでずっと看病してくれていたのを覚えているの。もしかして、それがあなた?」

彼はゆっくりとうなずいて見せた。
なんてことだ、彼と二度めの再会を果たしていたとは。

私はびっくりして衝撃を受けながらも、ジーンズの
ポケットに入れた紙を握りしめていた。

これを渡すなら、今しかないのかもしれない。
このチャンスを偶然と思うのか、運命と思うのか、
まるで偶然のような運命だと私は思った。

これまで、私はこういう時に毎回チャンスを逃してきたなと、これまでの人生を振り返ってさっき考えていたのだ。

なんでもまずは飛び込んでみる、それが今年の目標だった。

「私と、真剣にお付き合いを考えてもらえないでしょうか?」

私はポケットから小さな紙片を出して、彼にそっと渡した。

「捨てても構わないから。YESだったら、ここの住所宛てに、一通のラブレターを届けてください」

そう言って私は彼の胸ポケットに、その紙片を押し込んで、ソファを立ち上がった。

私は彼の存在に賭けた。
彼の挑戦と、勇気に賭けた。

この次の展開だって、私には分からない、でも同じところで足踏みをしていても何も変わらないんだって私がこの10年ずっと体感してきたはずだった。

だから、今日は門出の日。
一人の男に賭けて、チャレンジすると決めた。

ルーフトップに上がると、とてもきれいな夕日がちょうど沈んでいくところだった。

外で待っていたのか、田口はこっちを見てにっこりと微笑んでみせた。
彼女は、私のこのたくらみの共同首謀者であり、今回のBBQのコーディネーターでもある。

一週間にしよう、私は自分の心の中に言い聞かせた。
一週間、この夕日が7回沈んでも、それでも彼から返事が来なければ、私はあきらめて、また次の相手を探しにいこう。
その7回分だけは、仕事や自分磨きに集中をして、男のことを考えるのはいったんやめにしよう。

そう決めて、
一週間、私は彼からの返事を待つことにした。

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