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続・29歳、アラサー女子、リアルに婚活をするの巻 第3話

29歳片倉愛。
愛という名前に生まれたが、現在進行形で愛を探している最中。

と言いながら、仕事に一生懸命にやってきた10年を振り返りながら今はリアルに婚活に夢中。

現在29歳、30歳までのカウントダウンはもう始まっている。

そんな私に先日会社で頼れる後輩、田口からあった提案はその名も
「逆バチェラー飲み」の予定だったんだけど、こちらも頭数は揃えて、合コンスタイルにした。でも、参加する女子には、意図共有していて、男性陣へのパスをうまくまわす役回りに徹することに

バチェラーという一人の容姿端麗、学歴や社会的地位も申し分ない魅力的な男性を巡り、女性たちが熱い戦いを繰り広げる物語、それがバチェラー。

そして、それの逆をやろうというのが田口の提案である。

アラサーを前にして、自分にできることは、全部やる!と決めて田口にアラサーギリギリで婚活をお願いしての今。
もうお尻に火がついている。
30までに何とかして結婚すると決めて、オンライン飲み会も自分で企画して、自分の外見だってアップデートをして日々チャレンジを積み重ねている。

そして、なんでもやるのだから、と決めて向かったBBQ会場。

BBQの場所は、田口の家の庭。
田口は実家が不動産を営んでいる関係で、謎に一人暮らしなのに広めの中層階のマンションに住んでいる。

庭も広々していて、地上から30階の見晴らしはとても美しい。
そこには、私が先日ピックアップした男性が5人と私の友人からかき集めた女性4人、そして田口。

なかなか外に出られなくなった今でも、こうして家でこじんまりと集まって飲むのは開放的で気持ち良い。30階のベランダで受ける風がさわさわとほほを撫でていく。

BBQはなかなかできないと思っていたのに、企画をし、ベランダを貸してくれた田口に感謝しかない。

4人の女性陣は私との昔からのよしみで、私の本気度を見て、今回のこの回に乗るねと言ってくれた。
こういう時こそ、持つべきものは友人である。

焼くのは得意だから、とBBQの焼き係に回ろうとした私を田口は事前の打ち合わせの時にやんわりと止めた。

「先輩は焼く係ではなく、選ぶ係なのです。品定めをたっぷりして、誰を選ぶのかに集中してください!」と。

なるほど。

自分の仕事に集中することか、と思い、私は現実に意識を戻した。

私がここでパートナーを選ぶ基準は間違いなく、
「結婚する気がある人」
そして願わくば
「私と生涯一緒にいたいと思っている人」

本当はプライベートで異性に自分から声をかけるのはとても緊張して心臓が持つかわからない。

でも、決めたのだ。
この1年で最高のパートナーをゲットするぞと決めたのだ。
なんだってやってやる。

 

さて、そんなこんなで、一人目の彼は私が一番に狙っている、4つ年上の商社マン、坂口。

仕事ができる風情で、さぞかし女性には困らないだろうという外見をしていて、素敵。

彼、坂口は東京生まれ東京育ちの洗練された物腰でいて、横柄な感じもなく、ゆったりした存在感で安心できる。
がつがつした感じもなく、育ちの良さやスマートな感じが私のタイプ。

一緒にいても楽しませてくれそうだし、仕事を頑張っている私のことも理解してくれたら最高、と先日殴り書きしたメモに書いてあった。

「坂口さん、楽しんでます?」
と聞いた私に、彼はこういった。

「今日はありがとう、田口さん、彼女は君の後輩?」

彼の視線の先には、田口の姿があった。

「そうです」と返した私に、彼は意味深な笑みを含めて言う。

「とても素敵な人だね、彼女は。君のことをとても慕っていて、君と仕事できることが幸せだといっていたよ。そんな風に一緒に仕事ができる仲間がいる君は幸せだね」

彼はグラスを片手に私の方に一瞬だけ視線を向けて、残っていたお酒を飲み干した。

「坂口さんは、どんな人と一緒に生きていきたい人ですか?」

気づけば、ストレートに聞いていた。

彼とは仕事観をたくさんこないだご飯にいったときにシェアをして、彼が仕事にかけている思いも知ってきた。
それを踏まえて、彼がどんな人と人生を送っていきたいのかを知りたかった。

坂口は、少しだけ口をつぐんで「あ」といって私の肩口のあたりに手を伸ばした。

「糸くず」

糸くず、と心の中で復唱する私。

彼の指先が肩口をかすめて、心拍数が跳ね上がる。
と同時に、こんな風に自分の中に恋愛で心拍数をあげるような心が残っていたことに、ほんの少し、びっくりしている自分がいた。

「糸くず、ついてた」

そういって坂口は私の肩から糸くずをそっと指でつまんで払った。

「愛ちゃんが、とても前向きにこれからの人生や、結婚というものを考えていることはわかったつもりだ」

そう言ってから、彼は微笑んで見せた。

「でも、僕は、君にひとつ隠していたことがある」

そう言って彼は口をまたつぐんだ。

「僕には、昔付き合っていた人がいて、その人と結婚をして籍を入れていた時期がある。僕たちは若かった、僕も23で社会人駆け出しだったし、彼女も年上だったといえど、当時は29で、仕事も頑張っていて、でも結婚も考えていた。
僕には彼女が求めた結婚を受け入れることしか当時の選択になかった。

そして、結婚をし、1年で別れ、今は別で住んでいる。

でも、彼女とはまだ籍が残っている状態なんだ。

申し訳ない、最初からそれを伝えておかなくて。」

私と彼の間に生ぬるい風が通り抜けていく。

ジーンズのポケットの中には、田口から託されたメッセージカードがある。

このたった2時間半の飲み会の間に、私は、このカードを誰か3人に渡すのだ。

この中から3人を選ぶということは、残りの2人を選ばないということでもある。

奇しくも、私は自分があらかじめて決めてきていた切り札の入れ先を迷い始めている。

手のひらに汗をかきながら、私は一人、坂口の発した言葉の意味をゆっくり理解しようとしながら、迷いの中にいた。

 

今日も私は愛を探しながら自分の愛をたったここにいる3人に投票する。

もう、ゲームは始まっている。
そして、あと2時間で、泣いても笑っても、今日のこの1日の勝負は決まる。

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