「みてみて~~!こんな大きな蟹はじめてみた!!」
「やばーーー!!!海鮮の財宝やね!!」
「まず写真撮っておこうかな」
「wwwwwwwwwwwwwww」
発泡スチロール容器を開けて、賑わっている中で一歩引いた中で一人焦っている女性はそこにいた。
「海鮮系の食材って包丁で切れるのかしら…」
目の前には成人の頭三個分のズワイ蟹。
これをどうやって切るのだろうか?と彼女は眉間に皺を寄せている。
今回は前途多難な幹事による海鮮BBQのお話。
◇
私の名前は篠原未來(ミライ)。
某大手企業の受付嬢のサブリーダーで人気No.1を自負しているほど仕事ができる。
そう、仕事は。
料理と幹事業はまるでポンコツだったのだ…。
◇
10月18日(日)午前9時半 都内BBQ会場
「まさか篠原先輩が料理が苦手だったなんて意外ですぅ~」
会社の後輩の伊藤真愛(マリン)は手際よく蟹を専用のハサミで解体している。
「今まで作る機会がなかっただけ。これから頑張っていく予定だから。あはは…」
包丁で切るか、手で千切る発想しかなかった自分が恥ずかしい。
今まで何度も料理に挑戦したけど、私には目玉焼きと電子レンジで温めるのが精一杯だった。
今回の参加者は10人。
男女ともに半々の割合で参加している。
私とは飲み会幹事の共闘(?)仲間の高橋拓人(タクト)は今回は不在。
連日残業のしすぎで木曜から高熱を出し、BBQは急遽お休みになった。
拓人君とは半年前から一緒に飲み会をする仲だ。
最初はただのコミュ障男子だったけど今では月5回の飲み会を定期的にこなしている。
さて、今更ながら今日は私が主催した海鮮BBQ会。
ちなみに海鮮にしたのは「他の会と差別化したい」「写真見て皆が喜ぶと思った」と単純な理由だ。
拓人君が注文してくれたものは
「匠-TAKUMI-海鮮BBQセット3~6人前」
「プレミアム焼肉セット」
このセットが冷凍の状態で届いてきたのだ。
「え?この状態からどうやって作ればいいの?」
顔面真っ青の未來は非常に混乱している。
「大丈夫だよ未來ちゃん!この僕に任せたまえ!」
不安そうな表情をしている彼女に対して、自信たっぷりの発言をした男性がいた。
拓人君の会社の同期で、経理部にいる金子義弘(カネコヨシヒロ)は自他共に認めるイケメン。
今回の海鮮BBQ会の男性側の幹事だ。
彼が呼んできたメンツは中々良い人が多いかも?と期待している。
率先して男性陣が手を動かしている。
居酒屋バイト経験や趣味に料理もあるのだろうか。
マリンをはじめ、手際の良い彼らのおかげで海鮮とお肉の下処理がみるみるうちに終わった。
そういえば、今日参加する男性達ってどんな人かな?と思い、私は拓人君から送られてきた友達の情報が載ったメッセージの内容を確認した。
◇
1.金子義弘(カネコ ヨシヒロ)
27歳、拓人と会社の同期で現在は経理部に所属。
自他ともに認めるイケメンで盛り上げ役と聞いている。
自己アピールが強い傾向あり。
2.赤石諒(セキグチ リョウ)
28歳、メーカーの営業、よしくん(金子義弘)と飲み仲間らしい
3.牧田智輝(マキタ トモキ)
30歳、企画関係の仕事
4.水橋ゆうや(ミズハシ ユウヤ)
31歳、牧田さんと同僚らしい
5.刑部翔太(オサカベ ショウタ)
24歳、水橋さんの従弟らしいよ!
人柄もいい人達ばかりで、女性達は座っていてくれていいからと言っていたのだ。
名前、年齢、仕事がわかれば他の情報はアバウトでもいいかなと思っている。
何回か飲み会をやってきたけど、基本は拓人君に任せきりでいたので、私は飲み会の華の担当を全うしていた。
いわゆる、座っているだけで異性から喜ばれていたので、根回しなど何もしてこなかった。
こういう事前情報の把握とか全然やってなかったかも。
そりゃ自分何もできないよね!と今更ながら自らの行動に反省した。
ちなみに私達側のメンツはこうだ。
◇未來側のメンツ
1.篠原未來(私)
27歳、金子くんとは面識あり。
2.伊藤真愛(イトウ マリン)
24歳、新卒で私の後輩。
ゆるふわ女子の反面、手先が器用で料理の知識も一定以上あるとさっき知った。
3.堀田みちる(ホッタ ミチル)
29歳、私の大学の先輩で英語も喋れるバイリンガル、仕事はCA(キャビンアテンダント)
物凄く気遣い上手で縁の下の力持ちで頼れる先輩だ。
4.有川ゆうり (アリカワ ユウリ)
29歳、みちるさんの友達で読者モデル傍ら、外資系の保険の営業をやっている凄腕キャリアウーマン。
はじめて会ったけどデキる女の風格が凄い。
5.田中梨花(タナカ リカ)
23歳、マリンの大学の友達。
理系の大学院生で類は友を呼ぶのか、ゆるふわ女子。
バリキャリとゆるふわが混在していて中々濃いメンツだと思う。
◇
「未來ちゃん、これから乾杯するからこっちおいでよ」
みちるさんはこっちへと手招きをしている。
そういえば、食材を焼く前にまずは乾杯だった。
「はいこれ。未來ちゃんシャンパン飲めたよね?」
みちるさんから専用のグラスに注がれたシャンパンを渡され、違和感を覚えた。
「あれ?私シャンパンなんて頼んでないですけど。メニューにもなかったような…」
「僕の従弟が持ってきてくれたんだ。あいつの家はボンボンだからさ。あ!僕は水橋ゆうやって言います。幹事の篠原さんだよね?」
無精ひげに黒縁メガネでツーサイドブロックと攻めた外見とは反面、言動は落ち着いた物腰で柔和な印象を受ける。
「あ、はい!篠原です。初めまして♪」
瞬時に愛想良くできる、という受付嬢で培ってきた経験がここで活きた。
どうやら水橋さんの従弟の刑部君の家は裕福らしく、お酒は執事の方が持ってきたそうで。
シャンパン、ドンペリなどホストクラブで出てるような物をはじめてみた。
漫画の世界だけかと思ってたとマリンとリカは感情豊かに表現をしている。
「コホン。それじゃあ皆揃いましたね?」
私はシャンパングラスを片手に全員いることを確認した。
「私は最初は友達の輪を広げたくて幹事をやり始めました。今はたくさんの方と仲良くなって素敵な人を見つけられたらと思ってます。今日は趣向を変えてBBQです。楽しんでいきましょう!乾杯!!」
10人の参加者達は一斉に乾杯し合った。
自己紹介タイムが終わってひと段落した後、焼く準備ができたみたい。
この後、ちょっとした手違いで色々と大炎上するとは誰も思っていなかった。
次回の更新は10月20日!お楽しみに☆