ーー飲み会1週間前 自宅ーー
段取りは頭で理解出来る。
実際どうなるかは当日次第っていうのが気になって眠れない。
自宅のベッドで毛布に包まりながら、僕は1週間後に開催される飲み会へのリベンジに期待よりも不安がいっぱいである。
・お店の予約と下見
・参加者全員へ出欠確認のメール
・当日はキャンセル料がかかること
出来る限りの事はした。
もやもやしながら就寝した。
ーーー飲み会 3日前ーーー
新宿南口の平日夜は帰宅ラッシュでとても混んでいる。
「先輩ー!遅いですよぉ」
愛嬌溢れる伊藤真愛(マリン)と新宿駅の南口で待ち合わせに10分遅れた。
僕は178センチに対し、マリンは150センチ前後と背が低いので見つけるのに結構苦労した。
「ご、こめん伊藤さん…(見えなかった…)」
僕は歯切れが悪い謝罪と照れ隠しをする。
女性と平日の夜に買い物に行くなんて高校生以来なので緊張しまくっているのだ。
どうしてマリンと一緒に買い物に行く事になったのか?
今日社内メールにマリンから
「先輩のコーディネートをしなきゃいけないから今日買い物行きましょ!」
と、半ば強引に誘われたのだ。
マリンは篠原未來から「高橋君のコーディネートを一新してきて」と言われたから、と話していたが、それは建前だった。
ーーーー当時の僕はマリンから好意と興味を持たれていた事に微塵も気付かない。
僕はそれくらい前回の失敗を引きずっていて、彼女たちの信頼を取り戻そうと挽回しなければと必死だった。
ーーー新宿駅直結の商業施設ーーー
「先輩はベーシックな服装が似合うと思います」
私は伊藤真愛。マリンは本名、巷で話題に取り上げられるキラキラネームに分類される。
篠原先輩と口裏合わせて、高橋先輩の服装を一新しようと目論んでいる。
高橋先輩がメガネを外した姿がカワイイ系の顔だったのを一目見て、ちょっといいかもと思ってしまった。
オタクだという噂だから、服装はきっとダサいというイメージは私と篠原先輩の中で確立されている。
2.5次元に近いパッチリ二重は中年のおじさんがかけるような眼鏡で残念な仕上がりで、土日はきっと赤チェックのシャツと大きめサイズの黒のパンツを履いている秋葉系オタクが想像できてしまう!笑
仕方がないから隠れオタクの私が先輩を改造してあげようっていう算段なのだ。
この人を良い感じにメンズ雑誌のモデル風に仕立て上げて、飲み会でのマイナスな評価を外見からプラスに徐々に上げていく算段である。
最終的に、「飲み会がうまく行ったのはマリンの陰ながらのサポートのおかげだよ!」なんて先輩から言われたりして良い感じになったりして!と妄想していたりする。
「先輩?チェックのシャツ選ぶの禁止です。シャツ系は白かデニム素材にしましょう♪」
今まさにチェックのシャツを手にしようとしたので、近くにあったデニム素材のを選んだ。
「え?あぁ、うん…それが良いならそうするよ(なんか僕、言われるがままだな。悪くないけど)」
デニムシャツに試着後…
「わーーー☆デニムシャツの方がとっても似合いますぅ♪♪」
ぶりっ子しても先輩はきっとあざといとは思わないでしょうね。と、マリンはくすりと笑った。
「そう?じゃあ白とデニムシャツ二枚とパンツを買おうかな」
そうそう、私好みの服装でいい感じ!
先輩は上機嫌になっている。
お会計は2万5千円だった。
「あわわわわ…服にこんなにお金かけたことない…」
超小声で聞こえた。
先輩の顔はまっ青になりながらも財布からお金を取り出した。
ちょっと申し訳ない気持ちになったけど、当日はフォローしますねとマリンは心の中で誓った。
ーーー飲み会当日、午前0時 自宅ーーー
「ていうか、僕がリア充みたいな事してるんだけど夢なのでは?」
高橋拓人は明日が不安すぎて某巨大掲示板と某大手サイトの知恵袋に書き込もうとしては途中で本文を消す作業を繰り返していた。
不安を消すために缶ビールを一気飲みする。
途中で口内の炭酸がキャパオーバーしたので吹き出す。
ゲホゲホと咳き込みながら、テーブルに飛び散ったビールをティッシュで拭く。
拭き終わった後、肩肘をつきながらPC画面を眺める。
「27年間生きている中で合コンとか初めてだし!未來に挽回するために社内のイケメン呼んだけど盛り上げるのは無理だぉ…」
重く溜息をついた。
頭を掻きむしりながら段取りはまとめたファイルを開いて明日のイメージトレーニングの復習をした。
明日が一世一代の大勝負。
次回の更新は7月17日(金)
お楽しみに♪
▼前回の話はこちら▼
僕がリア充になるからには都市伝説級になってやんよ
第3話 初めて幹事やってみて、もうやりたくないと思った
http://57.180.186.170/2020/05/22/kanjimusou8/