ー前回のあらすじー
主人公翔太は、バスケをこよなく愛していて、真剣に全国大会を目指している高校生だ。
高校近くの花屋で働いている女子大生るみのことが気になって仕方がない。
しかし、一向に仲良くなるためのきっかけを見つけられずにいた。
そんな翔太に転機が訪れる。
元女子バスケ部の顧問で、伝説と言われた山本先生が、花屋で働いているるみのことを知っていたのだ。
しかも、元教え子でるみがキャプテンだったときに、高校で全国大会優勝を体験している。
翔太はあまりの衝撃に驚きを隠せなかったが、同時にるみとの最高の共通点を見つけた。
ここから翔太の人生をかけた壮大なチャレンジが始まる。
ー学校ー
「ラスト1分!」
「うっす!」
翔太はいつも通り真剣にバスケ部の練習に打ち込んでいた。
進学校でもあるので、土曜日の午後練は16時までには終わる。
その後も、速やかに帰るように指導されていて、自主練をするために残ることができない。
今時計の針は15時50分を指している。
「あと、10分で終わるな。」
珍しく翔太が部活の終わりを気にしている。
なぜなら、部活動が終わったあとあの花屋に行こうとしているからだ。
花屋に行くことにテンションが上がっているわけではない、るみに会えるかもしれない、という期待に胸が膨らんでいるのだ。
先日、山本先生にいいことを聞いたので、そのことについて話したくてたまらなくなっている。
頭の中はそれでいっぱいだ。
まるで、クリスマス前の小学生である。
「お疲れ様でした!」
16時に部活が終わった、時間通りである。
体育館を出る前の翔太は、誰が見ても気付くくらいウキウキしていた。
翔太は周りから練習好きで知られていたので、翔太を見た仲間は不思議そうな顔をしていた。
体育館を出るなり、翔太は矢の如く走った。
と言っても、学校から歩いて3分もかからないので、走ったところでたかが知れいている。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
花屋についた翔太は、気づいたら息が上がっていた。
そのくらい心が高揚していた。
しかし、そんな翔太の心を裏切るように、花屋についてすぐ異変を感じていた。
いつもは明るい店内が、妙に暗く見えたのである。
おかしいと思った翔太は、お店の前の張り紙に気が付いた。
「本日、臨時休業だって、、うそ、、。」
人はあまりにも驚くと、言葉にならないことを体感した。
いつもだったら全く気にしない臨時休業だが、今日だけは心底心に響いた。
閉店とかではないので、また明日お店に来れば問題ない話だが、この時はまるで閉店したかのように衝撃が走った。
僕はお店の前で呆然と立ち尽くしていた。
もしかしたら、試合で負けた時よりも落ち込んでいたかも知れない。
どのくらいお店の前にいたか正直分からないほど、時間の流れがゆっくりに思えた。
お店の前を通り過ぎる人や車、雲の流れ全てが止まっているかのようだった。
その時だった。
「あの、今日お店お休みですよ。」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
まさかと思って後ろを振り返ると、いつものお姉さんがいた。
「るみさん!」
「え?なんで私の名前を知っているんですか?自己紹介していないと思います。」
「いや、あのー。」
「元女子バスケ部顧問の山本先生から聞きました。」
その瞬間、るみさんの顔が変わった。
「そうなんですね。」
一瞬、驚いた顔をしていたが、微笑みに変わった。
「山本先生元気でしたか?」
「相変わらず、とても元気でしたよ。」
「それは良かったです。」
「今日は臨時休業なんですね。」
「ええ、お店の内装工事があったので。」
「工事は既に終わっているので、ここで立ち話もなんですから、お店の中に入りますか?」
るみさんの方からお誘いが来るとは思っていなかったので、嬉しさでいっぱいだった。
お店の中に入ると、すぐに異変に気付いた。
壁紙が張り代わり、花壇も新しいものになっていて、全体的にお店の明るさが前来た時よりも増していた。
「新しいお店の感じどうですか?」
「壁紙がとても綺麗で、ステキです。」
「感想ありがとうございます。」
何を話しかけられても嬉しかった。
「るみさんは今もバスケをしていますか?」
そして、どうしてもこのことが聞きたかった。
キャプテンとして、チームを日本一に導いた経験や、努力の量計り知れない。同じく全国を目指すバスケットマンとして、話を聞きたかった。
「今ですか?今はやっていないです、花屋の運営があるので。」
「え?日本一になったのに、辞めちゃったんですか?」
「確かに大学からお誘いがありましたが、断りました。」
「この花屋を守るために。」
とてつもなくこの花屋に対して思い入れがあることが、るみさんの雰囲気からとても伝わった。
「この花屋、何かあるのですか?」
僕はどうしても気になって聞いてしまった。
「亡くなったおばあちゃんの形見なんですよ。」
「だから、私がおばあちゃんの想いを残すためにも私が店長をしています。」
「そうだったんですね、、、気に障ることを聞いてすいません。」
「いえ、私から言ったことですので、全然大丈夫ですよ。」
怒っているかも知れない、悲しんでいるかも知れないと思って、るみさんの顔を見るのが恐かったが、優しく微笑んでいた。
確かに僕が小学生の頃は、年配の方がお店にいる感じだった。
「おばあちゃんのこと大好きだったんですか?」
「もちろんです!私がバスケをするきっかけになったのも、おばあちゃんのおかげです。」
「おばあちゃんは昔、小学校の校長先生をしていて、山本先生と同じ学校で働いた経験があり、仲が良かったんです。」
「そのおかげで、私は山本先生に出会うことができ、バスケにも出会うことができました。」
「おばあちゃんは昔から人をとても大事にする人で、その想いがあって友人の方からこの花屋を引き継ぎました。」
「私は大切なことをたくさん教えてくれたおばあちゃんに恩返しするためにも、この花屋を大学生の期間まで引き継いでいます。」
「それほど大きな想いがあったんですね。」
るみさんの壮大な想いに、どう返していいか分からず、数秒間沈黙が続いた。
すると、あることに気付いた。
「待ってください!大学生の期間までということは、今年で終わりですか?」
「そうですね、でも安心してください、私はこの花屋を卒業しますが代わりの方は見つかっています。」
「安心しました。」
「ですので、私と仲良くなりたかったら、急いだ方がいいですよ?」
るみさんは笑いながら僕に向かってそう言った。
「あははは、頑張ります。」
全てがるみさんにお見通しと分かったので、苦笑いをしてしまった。
青春はいつ始まって終わるかは、僕には分からない。
だからこそ、常に全力だ。
部活も恋も。
「Coiラボ」は、今後も日常の中で発展したご縁や、新しい出会いに繋がる気付きをストーリーを通して発信していきます。