〜金曜日、AM5:00〜
『おはようございます!本日のニュースをお伝えします…』
「あれ?もう朝か…」
つけっぱなしでいたテレビから挨拶をされて、亮太は朝になったことに気づいた。
「少し、寝るか」
首に手を添えて、凝り固まった筋をほぐした。
テレビを消し、夜通し向かい合っていた社用のパソコンをパタンと閉じて、ベットに横になった。
SEをしている亮太は、ここ最近炎上案件を抱えており、徹夜で対応をしていた。
(こう徹夜が続くと堪えるなぁ…)
幸いテレワーク勤務なので、今から始業時間までは仮眠を取ることができる。
〜金曜日、AM8:55〜
ジリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!!
と、けたたましく音を立てるスマホのアラームを止めて、ムクリと起きた亮太は、ほとんど開いてないような目をこすりながら先程閉じたばかりのパソコンを開いて電源を入れた。
オンライン上でタイムカードを押して業務を開始する。
徹夜が3日続いていたが、今日を乗り切れば明日から土日なので、たっぷり睡眠を取ることができる。
しかし、それも今日の頑張り次第。
今担当しているシステム障害が解決しなければ、土日も返上、なんてことになりかねない。
そろそろ枕を高くして寝たい、と心底願いながら、目の前の仕事に取り掛かることにした。
〜金曜日、PM3:00〜
「このままいけば、夜までにはなんとかなりそうだな」
この三日三晩頑張ってきた甲斐もあるというものだ。
ちょっとした達成感を感じつつある亮太の耳に、LINEの通知音が入ってきた。
「珍しいな、誰からだ?」
LINEを開いてみると、大学の時のゼミの同期の吉田からだった。
『杉浦!久しぶり!元気してる?ちなみになんだけどさ、明日の20時くらいって予定空いてたりする?』
という内容だった。
久しぶりの友人からのメッセージに、
『元気してるよ。そっちはどうなん?明日の夜なら空いてるよ。』
とだけ返信して、まずは目の前の仕事を片付けることにした。
〜金曜日、PM7:00〜
「あー…終わったぁ」
眠気が限界を超えていた亮太は、すぐさまベッドに倒れこみ深い眠りについた。
ベッドに倒れ込んだ際に、一瞬つけたスマホに吉田からのLINEが入っていたのを確認したが、もはや眠気に抗うことはできなかった。
〜土曜日、PM1:00〜
亮太は結局この時間まで眠り続けていた。
スマホから鳴る着信音で目を覚まして画面をみると、電話をかけてきたのは吉田だった。
『杉浦!LINEみたか?今日の飲み会来れそうなん?』
「飲み会?ごめん。昨日まで徹夜続きで今までずっと寝てたんだ。飲み会って、ゼミのやつらと?」
『ちがうってー!合コンだよ!合コン!!急遽来れなくなったヤツがいて、代打お願い出来ないかなって話!』
(あぁ…そういう話か)
「了解。場所と時間は?」
『よかった、来れるんだな!店と時間はLINEしといたから、見といてくれ。』
「わかった。また後ほど。」
『おう!よろしく!!』
吉田はそう言うと電話を切った。
(相変わらず慌ただしいヤツだ。)
吉田は大学のゼミの同期で、いつもこの調子で人を何かに巻き込んでいく。
場を盛り上げるのがうまく、巻き込まれた方も結局楽しめるので、いつも輪の中心だった。
自分は常にこんな風に巻き込んでもらいながらも、その状況を楽しんでいた1人だ。
そんなに人と話すのが得意ではない自分は、そんな人を巻き込む才能のある吉田がちょっとうらやましかった。
(それにしても合コンか…)
亮太はタンスの中をひっくり返し、着ていけそうな服を見繕った。
(そう言えば、風呂入ってないな…)
ヒゲも剃り、シャワーも浴びて身だしなみを整えていく。
(お店ってどこだっけ?)
吉田からのメールを確認すると、渋谷にあるこじゃれたダイニングバーが会場のようだった。
場所、時間の他に、『クリスマスプレゼントをご用意ください』との記載があった。
(そういえば、今日ってクリスマスイブなのか…)
12月に入ってから仕事に忙殺されていた亮太は、今日が一年の中で一番世の中が浮足立つ聖夜であることに気づいた。
そして、プレゼントを買うために、少し早めに家を出るのだった。
~同日、PM7:00~
渋谷の街は人でごった返していた。
人波をかきわけ、よく出入りしている商業施設の雑貨コーナーにたどり着いた。
亮太は雑貨屋巡りが趣味で、この店の売り場のどこに何があるのかは大体把握していた。
(無難なプレゼントって、やっぱり置物かな…)
辺りを見渡すと、壁際の棚に並んでいたスノードームに目が留まった。
近くに寄ってよく見てみると、少し小さめだがドームの中にある街並みのジオラマと、屋根に乗っているサンタが可愛らしく、いかにもクリスマスといったところが気に入ったので、このスノードームをプレゼントとして持参することにした。
会計を済ませて、時計を見るとすでに午後7時45分だった。
(結構時間かかったな…急がないと。)
亮太はスマホであらかじめ表示させていた会場への地図を見ながら、足早に歩き始めた。
~同日、PM8:00~
結局店には時間ギリギリの到着になった。
通された席に行くと、もう亮太以外のメンツは揃っていた。
「お!杉浦やっときたか!飲み物何にする?」
男性陣は見たことのある顔ぶれだった。
吉田と、吉田のサークル仲間が2人。大学時代に何度か飲んだことがある。
「すまん!遅くなった。ビールで。」
女性陣に向けて軽く会釈をして、空いている席に座った。
程なくして全員の飲み物が運ばれてきて、吉田の短い挨拶の後、乾杯の運びとなった。
女性陣も4人。幹事の高野さんの職場の仲間ということだった。
女性陣はみんなキレイだったが、自己紹介を聞いた亮太は、幹事の高野さんが気になっていた。
趣味が雑貨集めということで、自分と近しいものを感じたからだった。
どんな雑貨が好きなんですか?
どういうお店に行くんですか?
最近はどんなものを買ったんですか?
…頭の中には次から次へと質問が浮かんでくるものの、こういう場でコアな話を掘っていくのはやりにくかった。
亮太が話を切り出せずにいると、当の高野さんは持ち前の明るさで回りを盛り上げてリードしていた。
宴もたけなわとなり、プレゼント交換が始まった。
男女が交互に座り、音楽に合わせてプレゼントを隣へ渡していく。音楽が止まった時に持っているものを持って帰れるということだった。
席替えで高野さんに近づくチャンスと思われたが、吉田に変わる先の席を指定されてしまい、意気消沈。
結局亮太と高野さんは対角線上の正反対の席に座ることになった。
せめて、高野さんのプレゼントが手元にきたら…という淡い期待を抱きながら、プレゼント交換が始まった。
まずは持ってきたプレゼントを全員テーブルに出して、シャッフルして、初期位置を決めた。
音楽が流れ、吉田の「はい!」、「はい!」の掛け声に合わせて隣にプレゼントを渡していく。
音楽が止まった時、嫌な予感がした。
自分の買って来たものとサイズが同じだったからだ。
それぞれ何をもらったのかを発表する流れとなった。
亮太が渋々プレゼントを空けてみると、やはり中身はスノードームだった。
しかし…亮太が選んだものとは違うようだった。
(ドームの中身が違う…?)
「あー!!自分のプレゼントもらっちゃったかも!!」
と大きな声がした。
亮太が目をやると、大きな声を発していたのは高野さんだった。
高野さんは亮太が買ってきたスノードームを手にしていた。
自身が買ってきたものとドームの中身が違っていることに気づいたようで、
「あれ?でも中身が違うかも?」
と絶妙な間でみんなの笑いを誘った。
「それ僕が買ってきたやつです。で、多分高野さんのはこれですか?」
と亮太は声をかけると同時に手に持っていたスノードームを見せた。
高野さんが、
「あ、なるほど!そうです!そっちが私が買ってきたやつ!!」
まさかのプレゼントのチョイスが被ってしまい、この後はずっとこのことを茶化されてしまった。
ただ、満足に高野さんと会話することはなく、飲み会は幕を閉じた。
開始が遅かったこともあり、この日は連絡先を交換して一次会で解散となった。
帰り道、高野さんにLINEをしようか迷っていた亮太の元へ、なんと高野さんの方からLINEが来た。
『今日はありがとうございました!楽しかったですね♪
同じ雑貨が趣味だったので、もっとお話したいなー、と思ってLINEしました!年末年始は地元帰りますか?』
亮太は、
「こちらこそありがとうございました!確かに全然話せなかったですね。
ぜひぜひまたお話しましょう!年末年始は今年はこっちにいるつもりです。高野さんは地元帰らないんですか?」
と返信した。
家に着き、眠りに着く前に高野さんからの返信がきた。
『そうなんですね!私も今年は帰らないでこっちにいようかと思ってます♪まぁ、埼玉なんで、しょっちゅう帰ってますし(笑)もしよかったら、初詣とか一緒にいきませんか?』
とのことだった。
亮太は、
「ぜひ、お願いします。」
とだけ返信して眠りについたのだった。
しかし、思いがけずに思い通りにことが運んでいることに興奮が冷めず、結局次の日も寝不足になる亮太であった。
「Coiラボ」は、今後も日常の中で発展したご縁や、新しい出会いに繋がる気付きをストーリーを通して発信していきます。