あらすじ
コンサルタント会社の企画室に務める上田かな。
仕事にしか興味がなく、誰よりも仕事に打ち込んできていて、次期副室長は確実と思っていた。
しかし、次期副室長の選考が難航していることを室長から告げられる。
かなの仕事以外の部分で上長の承認が得られないという。
副室長という責任ある立場に就くにあたって、室長経由で社長から提示された条件は、「全社イベントのBBQの幹事を担当すること」だった。
週末に BBQの幹事として調査に明け暮れたかなは、翌週の幹事ミーティングで、思いがけず余興担当に任命される。
疲れが溜まっていたのか、勢いよく立ち上がった瞬間、めまいと共に倒れてしまうのであった。
〜同日、PM7:00〜
「あれ?ここは…?会議室でミーティングをしてたはずなのに」
私はベッドに寝たまま考えていたが、頭がボーッとしていて、中々何があったか思い出せない。
(あ、そうだ。ミーティングに用意していった資料は全然役にたたなかったんだ。もう担当の方々が動いていて…なんで私がメンバーに追加されたんだろう?と思っていたら、ミーティングの最後に余興の企画担当に指名されて…)
「あー!!!」
と私は大きな声をあげてしまった。
「上田さん!気がつきましたか?」
声が聞こえ、カーテンを開けて早瀬さんが入ってきた。
「あ、早瀬さん!すみません、大きな声を出してしまって。あの、私、どうしてここで寝ているんでしょうか?」
と冷静を装ってみたものの、大きな声を聞かれてしまった恥ずかしさで、顔が焼けるように熱くなっていた。
「(優しく笑って)大丈夫ですよ。この医務室には今、他に人はいませんから。ミーティングの最後に急に倒れてしまったんですよ。」
「えぇ!?そうだったんですね…どうも早瀬さんに余興担当を任命されたあたりから記憶が曖昧で………
あっ!そうでした!!余興!余興ってなんですか?なんで私が余興担当なんですか!?」
まだ頭が回っていないようで、矢継ぎ早に早瀬さんに質問を飛ばしてしまった。
早瀬さんは苦笑いをしながら、
「いやー、実はその辺の説明をちゃんとしないと。と思って残っていたんです。
上田さんの幹事メンバーへの参画は急遽決まったんです。他のメンバーは先月くらいから動き出していたのですが、たまたま企画室と広報室在籍のメンバーがいなくて、出席や当日の流れの説明なんかをお願いできる人がいないか、と斉藤室長に打診していたんです。」
「それが、なぜ余興に…?」
「もともと余興は誰もやりたいと申し出る方がいなくて。僕が何かやろうかと思っていたんです。
そこへ、上田さんアサインの話が急遽持ち上がったので、余興担当をやってもらおう、という流れになりました。」
「そんな…余興なんて、何をしたらよいのか…そもそも余興なんて必要あるんですか?」
「僕は必要だと思いますよ。その場の空気を盛り上げるだけでなく、その後の仕事の進め方にも大きく影響すると思います。」
「そうなんですね…でも、私には余興でできそうなことは何も…」
「そんなことないですよ。上田さんすごくがんばり屋さんじゃないですか。作ってくださった資料を拝見しましたが、すごくよくまとまってました。」
「あはは…ありがとうございます。でも私が調べたことはもう皆さん取り組んでいて、何の役にも立たなかったです。」
「そんなことないですよ!!何度かこのイベントの幹事をしていますが、参考になることもいっぱい調べてくれていました。すごい力ですよ。」
早瀬さんが励まそうとしてくれているのが伝わってきて、嬉しいような、情けないような気持ちがしていた。
「次回は上田さんがまとめ役かな?」
「えぇっ!?」
「冗談です!あはははは!」
「ふふっ、あはははは!」
なぜか思わず一緒に笑ってしまった。
不思議な空気がその場を包んでいた。
温かく、居心地がよい。
「上田さん。僕と一緒に何か余興をしてみませんか?」
「早瀬さんと一緒にですか?」
「はい。何をやるかはこれから考えるとして、2人でBBQが盛り上がる余興をやりましょう!」
「わかりました。ありがとうございます。」
「何をやるかとかはまた明日考えましょう。今日はもう遅いので。」
「え?今何時ですか??…もうこんな時間!?」
自分の腕時計を見てみると、すでに午後7時半を回っていた。
私の目が覚めるまで、早瀬さんの時間を取らせてしまったことに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「早瀬さん。こんな時間まで付き合わせてしまってすみません。もう帰りましょう。」
と言うが早いか、私は腰掛けていたベッドから立ち上がった。
しかし急に立ち上がったせいか、また立ちくらみを起こして倒れこみそうになった。
「上田さん!?」
とっさに早瀬さんが私の身体を支えようとして、はからずしも抱き合うような形となった。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい、すみません。まだ足元がふらついてるみたいで。」
私は恥ずかしさと、先ほどの不思議な温かい気持ちも相まって、真っ赤になってしまった。
「今日はタクシーで送って行きますね。」
と言って、早瀬さんは私の家まで付き添ってくれた。
〜同日、PM8:30〜
「今日は本当にありがとうございました。余興の件、よろしくお願いします。」
「こちらこそ。よろしくお願いします。また明日!」
と早瀬さんと別れ、自分の家にたどり着いた私は、シャワーを浴びてすぐ横になった。
身体は疲労感でいっぱいであったが、なぜか心は暖かく、明日が来るのが楽しみになっていた。
こんな気持ちはいつぶりだろう?
私はこの夜、昔の夢を見た。
中学生の頃、恋心を抱いていたひとつ上の先輩がいた。もう忘れかけていた記憶だったが、この日の夢が思い出させてくれた。
今私の中に生まれている気持ちが、恋心であるということを。
続く…
「Coiラボ」は、今後も日常の中で発展したご縁や、新しい出会いに繋がる気付きをストーリーを通して発信していきます。