続・29歳、アラサー女子、リアルに婚活をするの巻 第5話

あと1週間。

 

片倉愛、アラサーで思い立って、これまで続けてきた婚活。

 

1週間にしよう、私は自分の心の中に言い聞かせた。

1週間、この夕日が7回沈んでも、それでも彼から返事が来なければ、私はあきらめて、また次の相手を探しにいこう。

その7回分だけは、仕事や自分磨きに集中をして、男のことを考えるのはいったんやめにしよう。

 

私は彼からの返事を待つことにして、本当にこれほど1週間が長く感じたことはない。

 

1日目は、ドキドキした。

2日目は、仕事が忙しくてそれどころじゃなかった、でもふとした時に彼の面影をつい探してしまう自分がいた。

3日目は、朝起きたときに、彼からの返事をもらった夢を見たことを思いだして、現実には返事がきていないことに気づいて、なんだかがっかりした。

そんな風に7日が続いてきて、とても長い長い1週間がすぎた。

 

彼からの返事は、来なかった。

 

私は彼の返事を待って最後、婚活を終わりにしようと考えていた。

29才の私にとって、それほどめちゃくちゃ体力が有り余っているわけでもないことはしみじみと感じており、婚活に120%動ける状態ではなかったからだ。

 

1週間が過ぎ去ってのち、ちょっとずつ、前の日常が戻ってくるのをゆるゆると体感しながら、私は日常生活へと溶け込んでいった。

彼と私の接点は本当に長い人生から見たら一瞬だったはずなのに、

数年振りの再会と、彼からもらったあたたかい自分の気持ちがあいまって、ずっとずっと、私の心の中に彼が生き続けた。

一緒にいないのに、どこかで彼に見られているような不思議な感覚で、時が過ぎていった。

 

それから、時は流れて半年が経った。

 

半年という月日を経て私はオフィスが代わり、ずっと一緒にやってきた後輩の田口とは違う場所で仕事をしていた。

 

オフィスも代わり、新たなプロジェクトに任されるようになり、どんどん仕事が面白くなってきた矢先、わたしは気づけば誕生日を迎えて30歳になっていた。

 

新しく任されたプロジェクトは、「イケてる男女の街コン企画」という他社との合同企画で、毎日のようにイケてる人が集まる場所に積極的に繰り出すのが習慣になっていた。

 

 

半年前に、自分も街コンに行ったり、とにかく出会いを求めてたくさんの異性にあっていた経験がこんな形で生きるとは、半年前の自分には想像もつかないことだった。

 

 

その夜は、自分が次に狙っていた五反田のお店に行くことにしていた日だった。

オフィスを出る手前でメールが飛んできたのを処理していて、思っていた時間よりもオフィスを出るのが遅くなった。

 

オフィスを出て、お店に向かう。

 

Barは最近五反田にできたばかりのお店で、ハイセンスな男女に向けた雑誌の「イケてる大人の夜の過ごし方」特集で組まれていたお店だった。

オープンしてわずか1ヶ月で、もうリピーターがつき、20代後半から30代の女性の男女がひっきりなしに出入りをしているとSNSでも話題になっている。

 

腕時計の時間を気にしながらBarのドアを開けて、今五反田で売れに売れているBarに入った。入り口のドアについていたベルがカランカランと小気味良く鳴った。

その矢先、何も予約をしていなかったことに気づいた。

 

「すみません、予約なしできてしまったんですけど、いけます?」

 

店長と思しきシルエットが店の奥からかつかつとこちらに近づいてきたとき、私は自分の目を疑った。

 

そこにいたのは、半年前にもう一度会うことを約束していた彼だったから。

 

「あなたは、あの時の」

 

そこから言葉が出なくなって、私は次に出す言葉を考えてフリーズしてしまった。

 

彼は、半年前と全く変わらない出で立ちで、そこにいた。

私が、彼の目にどう映ったのかは、わからない。

 

でも、そこには、あの時と変わらないお互いの親密な空気があった。

 

彼のことを忘れようとして、新しいプロジェクトに入って、でもそれでも、なんども彼の姿が私の頭の中に浮かび上がっては消え、浮かび上がっては消えた。

この半年は、彼とあっていないのに、まるで彼と過ごして、成長してきたかのような体感があった。

 

「元気でしたか?」

 

ようやっと絞り出した言葉に、彼は少しだけ、微笑んで見せた。

 

「ごめん。実は、あのあと海外に急に転勤が決まって、1週間の猶予もなく、日本をたたざるを得なかったんだ」

 

そう切り出して、彼は頭を下げた。

 

私は言葉をなくしていた。

 

「出会ってまもない君に、それを伝える勇気もなくて、決断を踏み切れずに日本を経った、それからずっと上海で飲食店のコンサルをしていたんだ、僕は。

今日は、久々に日本での仕事の日だった。ここは、僕がコンサルをしてる上海の店の、姉妹店なんだ。見学にきていて」

 

彼は一気に話してから口をつぐんだ。

「ここで、君に会うなんて」

 

そうこぼして、俯く彼を見て、わたしは、やっぱりこれは偶然ではなくて運命なのだと感じた。

 

彼とは一度、半年前に再会をして、また今年、運命の再会をした。

2度同じ人に再会することなんて、人生でそんなに多くあることではない。

 

私は、彼の仕事に向ける情熱が好きだった。

その仕事を通じて、こうして再会したことには、何か意味があるのかもしれない。

 

「今晩」

 

気づけば、私の口をついて出た言葉。

 

「今晩、もし宿がなかったら、うちで軽く飲んでいきませんか?」

 

それは、あの時は私から言えなかった言葉だった。

6ヶ月の間、もし彼にご縁があって再会できたなら、絶対に私から誘おうと決めていた。今度は積極的に。

 

ここから、

私の新しい30代の恋が始まる。

 

そんな予感を残して、長い長い夜が始まろうとしていた。

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