壊滅部署を救え!特命宴会課長 現る!! 〜第1話〜

〜前回までのあらすじ!〜

主人公・二階堂 薫は◯×商社に勤める「勤続10年・仕事一筋・一筋すぎて童貞」という新任若手課長!!
ひょんなことから二階堂は、壊滅寸前の第七営業部を再興するために懇親会の幹事に任命される!

宴会幹事とは無縁の人生を送ってきた二階堂の相棒に抜擢されたのは、『飲み会のモーツァルト』と呼ばれる第六営業部の新人・一ノ瀬 翔!!
果たして第七営業部の再起を懸けた懇親会は成功するのか!?
そして二階堂の運命や如何に!?

【登場人物】
・二階堂 薫(にかいどう かおる)・・・◯×商社 第七営業部の課長。学業と仕事一筋。そのため童貞。通称『仕事人』
・五利 文明(ごり ふみあき)・・・◯×商社 第六・七営業部の部長。第七営業部を再興するため二階堂に懇親会の開催を依頼する。通称『世渡り上手』
・一ノ瀬 翔(いちのせ しょう)・・・◯×商社 第六営業部に配属された未知の新人。通称『飲み会のモーツァルト』

永らへば
またこの頃やしのばれむ
憂しと見し世ぞ
今は恋しき

《通解》
この先もっと長く生きていれば、辛いと思っている今この時もまた懐かしく思い出されてくるのだろうか。
辛く苦しいと思っていた昔の日々も、今となっては恋しく思い出されるのだから。

藤原清輔朝臣

 

◯×商社 第七営業部のサブリーダーを務める二階堂薫は、昔祖母の家でやった百人一首の印象的な句をふと思い出した。
なぜなら彼は今、灼熱のサウナの中で闘っているからだ。

「あ…暑………」
かれこれ1時間近く経つだろうか。
隣には上司の五利部長が座っている。 

 

「サウナはな、人生の方位磁針なんだ…」
五利部長は貫禄あるどっしりとした声で呟いた。

大学時代、ラグビー部だったという体は齢40を超えても健在で、往年の張りは無くともかつて鍛えられたであろうその体からはモクモクと湯気を発していた。

「灼熱のサウナに堪え、自己を見つめ直すことで、どんな苦境にも堪えうる健全な精神と肉体が出来上がるんだ。
そうすると日々の雑念が振り払われ晴れやかな気分になる。
二階堂、お前も迷った時はサウナに入り、自分を見つめ直すんだ。」

「分かりました。部長………!」
返事をした二階堂の吐息はサウナの熱に交じり、暑さを一層際立たせた。
既にサウナで滲み出た汗も乾き、喉もカラッカラの状態だ。

薄れゆく意識の中、二階堂はふと『飲み会のモーツァルト・一ノ瀬 翔』のことを想った。
未知の新人、『一ノ瀬 翔』とは、一体どんな男なのだろうか…。

 

そんなことを考えていると、『童貞のまま死んだらあかん!』という祖母の悲痛な叫びが三途の川の向こう側から聞こえたような気がして、二階堂は薄れゆく意識を取り戻した。

「二階堂、上がるぞ。」

「はい…!わかりました…!」

五利部長の一声で、その日はゲームセットとなった。

二階堂はサウナから上がり、久しぶりに心地良い汗をかいた感覚に気分を高揚させた。
そして脱衣所で体を乾かしながら、自販機で100円のフルーツ牛乳を購入した。

「今日は良い日だったな…」
そんなことを思いつつ、二階堂は風呂上りのフルーツ牛乳をグイッと半分ほど一気に飲み干した。

正直、仕事終わりに部長からサウナへ誘われた時、二階堂は少し身の危険を感じていた。
しかし、拒むつもりは毛頭なかった。
なぜなら二階堂にとって五利部長は憧れの存在だったからだ。

五里部長は『仕事ができる上司』というよりは、人望があり周りから愛されるタイプだ。
今日サウナに誘ってくれたのも、部下とのコミュニケーションを何より大事にしている証拠だろう。

二階堂は、部長なりの気遣いを嬉しく思いながら、その日はどこかスッキリした表情で帰路に着いた。

 

カタカタカタカタ

翌日。

いつもと変わらずタイプ音だけが鳴り響く閑静なオフィスの中、二階堂は閃光のようなスピードで業務を消化していた。
昨日のサウナで疲れが吹き飛んだせいか、今日は朝からハツラツとした気分だ。

余裕ができたので午後の会議資料にも目を通しておこうとすると、五利部長からチャットのDMが1通届いた。

 

カチッ

『今日の12時、この前の喫茶店へ来れるかね?一ノ瀬くんを紹介しよう』

「??」

気が動転した二階堂は意味もなくチャットの文章をマウスでドラッグしてカーソルを合わせたり、選択を解除したり無意味な行動を取った。

三度見して、やっと心を落ち着かせたところで、二階堂はとうとう『飲み会のモーツァルト・一ノ瀬 翔』との邂逅が近づいていることに心を踊らせた。

「とうとう来たか、この時が…。」

居ても立ってもいられず、二階堂は休憩の10分前に席を立ち、足早に喫茶店へ向かった。
周りは『業務時間を死守する勤勉な課長にしては珍しい』と思い、不思議そうに二階堂の姿を見たが、その視線も全く気にならなかった。

 

「二階堂くん!!」

喫茶店に向かうと、店前のポスターで宣伝していた期間限定の巨大パンケーキをひたすらに食べながら、満面の笑みを浮かべている五利部長の姿があった。
4人掛けの席で、五利部長の隣の席には可愛らしいピンクのバッグが置いてある。

「女性物のバッグ…?」

席に着く瞬間、二階堂はチラッとそのバッグに目をやった。

五利部長の趣味だろうか。
あまりに可愛すぎるが、尊敬する人物とはいえ人には様々な趣味があって然るべきだ。
あえてツッコまないでおこう。
いや、むしろツッコんだ方が嬉しいのか…?

二階堂は、そんなことを考えながら五利部長の向かいの席に座った。

 

「お待たせしました、部長。」

「いや、むしろ早いくらいだ。業務の方は良いのかね?」

「はい、昨日のサウナで疲れが吹き飛びましたので。その節はありがとうございます。
それで、『飲み会のモーツァルト』は一体どこに…?」

 

昨日のお礼もままならぬまま、五利部長とそんなやりとりを交わしていると、後ろから「コツッ」と聞き慣れない音が聴こえた気がした。

ハイヒールの音だ。

振り返ると、背後に営業風の若いスレンダーな女性が立っていた。

 

「ん…???

 

「二階堂くん!紹介しよう!
彼女が『飲み会のモーツァルト』こと営業部の期待の新人、一ノ瀬 翔くんだ!

 

部長が『一ノ瀬 翔』と呼んだ女性は、可愛らしくニコッと満面の笑顔になった。

 

「初めまして!この度、第六営業部に配属になった新人の一ノ瀬 翔です!
男の子みたいな名前ですが、営業部の花として心機一転・紅一点!
皆様のお役に立てるようにがんばります!よろしくお願いします!」

 

がーーーーーーん!

「お…!女…!!!?」

突如、二階堂の目の前に現れた『飲み会のモーツァルト』こと『一ノ瀬 翔』は、超が付く程の絶世の美少女だった!
果たして二階堂は無事に懇親会を開き、第七営業部を再生できるのか!?
そして二階堂の童貞の運命や如何に!?

To be continued

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