続・29歳、アラサー女子、リアルに婚活をするの巻 第一話

気合いを入れすぎていないファッションってなんだろう。

 

そんなことを夜な夜な考えて、いま、私、片倉 愛はクローゼットの中身を探っているものの、いまだにピンと来ていない。

 

ピンと来ていないのは、今日何を着て、デートに行くのか、ということ。

 

そう、今日は3年ぶりのいわゆる「デート」の日。

恋愛からしばらく離れていたので、デートと言われてももはや記憶の彼方である。

 

先日、勇み立って実行したオンライン飲み会で出会った彼との、今日は初めてのデートの日である。

 

そんな彼が提案したくれたのは、新宿のとあるダイニングバー。

 

飲み会や居酒屋にはしょっちゅう行ったりもしているものの、ダイニングバーなんて一体いつぶりだろう。

仕事ばっかりやってきて、そういうキラキラした世界とは縁遠く生きてきた自分の人生を振り返って、思わず溜息をつきそうになる。

 

もう、時間だ。

メイクはいつもより時間をかけて、下地から丁寧に重ねづけをしていった。

鏡から見返してくるのは、ちょっといつもよりも大人っぽい私。

 

いつもとは別人になったみたいで、

最終的に選んだベージュのワンピースのサテン生地が、心許ない。

 

仕事でもプライベートでもワンピースなんて着ることはほとんどなかったのだ。

今まで私は、自分が着心地のいい服ばかり、選んできた。

でも、今日のこの服は、自分ではなく、これから会う彼のために選んだ。

 

どう思われるだろうか、いい年のしてアラサー独身女性が着るには、やや若作りじゃないだろうか。

 

そして、約束の20時。

かくして、彼は新宿の指定していたダイニングバーの前に現れた。

 

ダイニングバーでは、適度なソーシャルディスタンスを保った状態で、まばらにカップルが静かに飲んでいる。

 

大人のカップルはこういうところで飲むのか、、とそのおしゃれな内装や、バーテンダーの粋なスタイルを目で追って、心の中でつぶやく。

 

彼は、「今日はありがとう」と爽やかな笑顔で私に言ってみせて、改めて名を名乗った。

 

「田中 みつひろ」と彼は名乗って、白い歯で笑う。

笑顔がとてもかわいい人だなと思って、緊張もあり言葉少なに話していたのだが、

彼はずっと自分の家族のことや、最近飼い始めたというパグのことについてずっと話している。

 

話は面白い。

 

「最近はパグ太郎というのが流行っていてね」と語る姿は無邪気な少年のようだ。

自分の年齢を差し置いて言うのもあれだが、とてもアラサーには思えない。

 

肌つやも良くて、若々しい。

 

「…それで、」

話の途切れたタイミングで、耐え切れずに私は言葉を差しはさんだ。

 

「恋愛、したいなと思って私はオンライン飲み会をやったんですけど、、

私と、恋愛、してもらえます?」

 

これは、昨日の晩から何度も脳内シミュレーションをしていて、絶対にこれだけはいうぞと決めていたことだ。

 

緊張のあまり、気付けば手のひらが汗でびしょびしょだった。

 

20代前半の頃のように、ドキドキする恋愛がしたいというわけでもない。

恋愛で適度な失敗はしてきたつもりだ。

 

それでもなお、今こうやって思い切って新宿のダイニングバーなんて普段足を踏み入れないところにやってきたのは、ただ普通に恋愛をしたい、という切なる思いからだ。

 

目の前の彼、田中氏はにっこりと笑って言う。

 

「いいですよ」

 

と。

 

「ただし、二人の関係に結婚はこの先一切ない、という条件でよければ。」

 

一瞬、時が、とまったかと思うほど、気持ちがぐらぐらと揺らいだ。

 

たしかに、結婚は今すぐではなくてもいいと思っていた。

結婚に夢見た時期もとっくに終わってしまっている。

 

「わかりました。考えさせてください。」

 

「今日はお開きにしようかな」

 

彼は少し考えあぐねるようにしてから、そうぽつりと言った。

 

「さようなら、また」

 

どんな表情でその言葉を伝えたのかもよくわからないまま、

私は彼を一人置いてバーを立ち去った。

 

背後で、カランカランと音を立ててバーのドアが閉まる。

 

時間はまだ21時30分。早い時間だなぁ、と思った。

 

私は、恋愛の先に、結婚したかったのだろうか。

帰りの電車の中で、自分に問いかける。

自分で自分のことがよくわからなくなっていた。

 

携帯を取り出して、私は救世主に電話をかけた。

 

「はい、先輩!」

 

電話口でも田口はパリッとしている。

声を聞くだけで背筋がピンとする。

 

「あのさ、結婚が先にない恋愛って、どう思う?」

 

携帯電話の先で、一瞬考えるような間があってから、田口は言った。

 

「私は、ありっちゃありですけど。割り切れるのなら。

でも先輩は、そうですね、、どうなんですか?」

 

「わからない」

 

そう、わからないのだ。

そう思った瞬間に、

いや、違う。と思った。

 

いや。違う、私は恋愛したいし、婚活もしたかったはずなのだ。

まずは恋愛から、と思っていたけれど、その先に婚活ももちろん考えていた。

 

「私、もっかい考え直してみるわ」

 

急に覚醒したかのように頭が冴えわたる。

私は、考える必要がある。

自分の幸せとは何なのか?ということを。

 

そのためには、出会いを増やすことが一番大事なのだ。

それは、前回のオンライン飲み会の時に、よく体感した。

 

「私、出会いを増やす必要があると思うんだ」

 

そう田口に訴えると、田口は、確かに、と言って、

 

「そうですね。

だったら、自分で飲み会をいっぱい企画してみたらいいんじゃないでしょうか?

こないだみたいな感じで。

それで、走らせるんです。男を。同時並行で。」

 

走らせる???

男を??

 

ぽかんとしている私をよそに、田口は話を続ける。

 

「いいですか?先輩。

これは、アラサー独身女のプライドをかけた戦いなんです。

手段を選んでる場合じゃない。

出会いを待っている時間ももう残されていない。

であれば、一人の人とお付き合いして、また違う、また別の人とお付き合いして、また違う、、、ってことを繰り返している場合じゃない。

お分かりですよね?

どうしてもほしいものがあるんだったら、ある意味プライドは捨てて、たくさんの男性と同時並行で時間をともにするしかない、私はそう思うんですけど、どうでしょう?」

 

なるほど、、、

心の声が思わず外に出ていた。

「なるほど確かに!ってことは、私がまずは飲み会をとにかくやりまくったらいいわけね!」

俄然、燃えてきた。

「そうですね」

と淡々と言う田口。

 

「まずは、今月、そうだなあ…5回自分主催の飲み会をやってみるのはどうです?

幹事マスターになるんですよ。先輩が。」

「なるほどね。それは名案だわ」

 

ブルドック、じゃなかった、パグ男にばっかりかまっている時間すら私には残されていないのかもしれないのだ。

ちんたらしている場合ではない。

 

目指せ、幹事マスター。私は、この1カ月で幹事マスターになって見せる。

そこで出会った男を走らせる女になるのだ。

ここから、片倉愛、アラサー独身女の幹事マスター&男を同時並行で侍らせる(?)ドラマが始まる。

  • 幹事マスターになって、絶対に自分の幸せをつかむのだ。
  • 新宿からの帰り道は、とたんに町全体が輝いて見えるようになるから不思議だ。

 

早速携帯を取り出して、後輩陣一人ひとりの連絡先に、片っ端から電話をかけ始める。

まだまだ、大都会東京の夜は長い。

 

わたしはここからまた、街に繰り出す。

新しい人との出会いを求めに。

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