29歳、アラサー女子、リアルに婚活をするの巻(第3話)

アラサー女子の戦いの火蓋は今まさに、落とされようとしている。

これは、
大学の同期の結婚報告(しかもできちゃった婚)を受け、
お尻に火がついて、今流行りのオンライン飲み会から婚活をスタートしよう!と決めた私のアラサー婚活奮闘記である。

ざっくり言っちゃうとそんな感じなのだが、

いよいよ、待ちに待ったオンライン飲み会の始まり始まり~~!

「愛さん、大丈夫ですか?」

私の隣で最後のとどめのごとくマスカラを一本一本丁寧にまつげに塗りながら、田口は訊く。

大丈夫ってなにが、

とごにょごにょつぶやきながら私は落ち着きなく手元のメモを見つめていた。

ちゃんと、調べてきたのだ。
ベタだが、

「オンライン飲み会が盛り上がるコツ」とやらを。

学生時代から、何事も下準備が大事!と思って、
飲み会やみんなで集まってどこかに行くときは事前準備を怠ってこなかった私である。

こんな一世一代をかけたチャンスが目の前にあって、準備しないわけがない。
というか、準備するだろ、という感じである。

このチャンス逃したら本当に次はないかもしれない。
次もう一回この重い腰を上げてチャレンジしようと思うのは、一体いつだろう。

メイクもさっき田口に連れられていった先のデパートでちゃんとしてもらったし、
服だって、ちゃんと上半身に明るいラベンダー色のトップスをわざわざ新宿伊勢丹まで出かけて行って、なけなしのボーナスをはたいて買ってきたのだ。

これだけお金もかけたのだから、結果出さないわけにはいかないのである。

これはアラサー女子のほんのちっぽけなプライドである。

これまで、彼氏ができたことはあっても、すべて長続きしなかった。

社会人になってからは、
仕事が大好きだったし、
何があっても仕事がお友達という感じで生きてきた私の人生。

ずっとずっと、こういう感じでなんとなく人生進んでいくのだと思っていた。

恋人ができなくたっていい、いつかどこかで白馬の王子様的な存在が現れて、
その時に結婚を真剣に考えたらいいや、その程度に考えていた。

でも、あの大学時代からの友人の一声が、今でも頭にこびりついているのだ。

できちゃった婚したことを報告した電話がかかってきたあのとき、
友人のかなえはいろんな思いを伝えながら、
最後にひとこと、こういったのだ。

「でも、いいよね、愛ちゃんは。
仕事でだってバリバリ働ける場所があって、
素敵なタワーマンションにだって住んでて。
私はそういうの、たぶん当分無理だから」

電話越しだったけれど、その言葉にひっかかったことを今でも昨日のことのよう鮮明に覚えているのだ。

当分、無理だから、

そう言ったかなえの口調が言葉とは裏腹に、
安心しきっていて、
とても嬉しそうだったから。

自分の感情が分からなくなって、私は
そのもやもやを何もうまく言葉にすることができないまま、

そっか、だったらまた今度落ち着いたらカフェでも行こうよ、

そうやっとこさ一言だけ言って、通話終了ボタンを押したのだった。

あの時の感情が、今になったらよくわかる。

あれは、自分自身のなかにある、
「嫉妬」や「羨望」という名前の感情だったのだと。

悔しい、という思いだってあったけれど、
彼女のそういう言葉すらも嬉しそうに聞こえてもやもやする私は、

単純に彼女がとてもうらやましかった、ただそれだけ。

そんなことを思って黙っていると、田口が横から声を上げる。

「あ、ぼちぼちzoomの入室許可スタートしたほうがいいかもですね。zoom立ち上げましょうか」

スタートは20時で、今はその15分前。

私は持参したきたマイPCのMacBookをたたき、即座にzoom立ち上げ画面に移行した。

たった15分の間に続々とメンバーがそろってきて、5分前には全員分の待合室許可が済んだ。

これからがスタートである。

~~~~~~~~~~~~

「あ~~~腰と肩がばきばきだ~~」

予定していたオンライン飲み会の時間ぴったりに終わって、
帰り道のこと。

私はずっと集中して画面をガン見し、そこから今日準備してきた台本を読み上げるのに必死で、
もういっぱいいっぱいだった。

おかげさまで、腰と肩がたったの1時間半でバキバキにこってしまっている。

私の自宅に来て一緒に参加していた田口は
一人で帰れると言うが、そんなのもあまり気にせず私は
おくっていくと申し出て、一緒に夜道に繰り出した。

外の風は少し生ぬるい。
駅までは緩い下り坂になっていて、私たちはその風を受けながら駅までの道をゆるゆるとくだっていく。

どうだった?

そう私に聞く田口もすこしアルコールの力を借りてかいつもよりもやや声が高い。

私はぼんやりと思い出していた、
一人の男性の顏をかき消すようにして、

うーーん、どうかなあと
小声でつぶやく。

とか言っちゃって、
田口は続ける、
「いい人いたんですよね、きっと」

タイミング悪く信号に引っかかって、交差点で立ち止まる。

目の前を大型のセダンが通り過ぎていくのをなんとなく見送っていると、
田口は横から言った。

「あの人、愛先輩にお似合いだと思いますよ」

そう言って、田口はふふっと笑って見せた。

そ、そうかなあ、
と口ごもってその彼の顏を頑張って思い出そうとしてみる。

正直、顏がめちゃくちゃタイプだったのである。

彼は、大学時代の私の友人が一緒に参加しようと声をかけてくれたらしく、今日は急遽直前のお願いにもかかわらず飛び入り参加をしたとのこと。

出会いってほんとうにどこでどう出会うかわからないものだなあ、そう思って、
さきほど交換したLINEグループのトーク画面を開くと、
別で新たな通知がピコンと来た。

個別LINEだ。

「今、どこにいますか?」と一言、
それは私が特にいいな、と思った彼からのLINEだった。

「五反田の駅前に来ました」

とそっけなく一言だけ返したら、すぐに既読がついた。
あまりにもそっけなすぎたかもしれない、とはやくも反省し始めていると、

「そうなんだ!今さっきまでオンライン飲み会、恵比寿から参加してました。もしよかったら合流しませんか?」

ポップすぎず、でも重すぎず、とても自然なLINE。

この人と、LINEのコミュニケーションの波長が合いそうだな、
そう感じた一瞬。

私は考えるよりも先に、

わかった、
恵比寿の駅に会いに行きます。

そう返信していた。

そっけないかもしれないけど、
もしかしたら今日が、
ちょっとだけ特別な夜になるかもしれない。

こんな風に自分の恋愛でドキドキしたり心が動いたりするのが、
とても懐かしいな、と思って、
五反田の駅前を流れる人の波を見ながら、
私の心はもう恵比寿に行ってしまっている。

腕時計に目を落とした。
時刻は、22時前、いつもとはちょっと違う、金曜の夜。

「ごめん、私用事ができたら、ちょっと急ぐね」

そう一言だけ田口に告げて、
私は交差点の信号が青色に点滅するなり、
交差点を軽く駆け足でわたって駅へ向かう。

一分でも、
一秒でもはやく、
素敵な人生のパートナーに出会えるかもしれない、
そんな期待に胸をおどらせながら。

駅構内のトイレで、きゅっと赤いリップを引き直して、
私は山手線のホームに駆け上がり、
ちょうど来た電車に飛び乗った。

これから、私の何年越しかの恋愛が、始まるかもしれない。

ネオンに輝き、過ぎ行く街並みを見送りながら、私ははやる気持ちを抑えながら、
電車の揺れに身を任せて、呆然としていた。

東京の夜はまだまだ長い。

 

▼前回のお話はこちら▼

29歳、アラサー女子、リアルに婚活をするの巻(第2話)

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