29歳、アラサー女子、リアルに婚活をするの巻(第1話)

6月19日(金)@都内丸の内オフィスビル

都内の中心地にそびえたつオフィスの31階で、片倉 愛(かたくら あい)はふうっと溜息をつく。
ふっとPCの画面から視線をそらし、、この冬のボーナスをはたいて自分にプレゼントしたスワロフスキーの時計に目をやる。もう15時30分を回っている。
今日はあと1件、外出予定があって、それが終わればこのままオフィスには帰らず直帰予定だ。
毎週金曜日の15時ぐらいを回ってくると、いつも今週末のことに思いをはせて、大した予定の入っていない週末を考えると憂鬱になってしまう。

でも、今日はそんな毎週の金曜日の午後とはちょっとだけ違う。

今日は、なんといっても生まれてはじめて自分で企画するオンライン合コン。

これまで、彼氏がいたことはあったけど、みんなものの見事に3か月程度で消滅。
私には、長く男性とおつきあいをした経験もなければ、結婚したいなと思える男性に出会ったこともない。

でも先月29才の誕生日を迎えたその日に、一番大学時代から仲良くしてきた女友達、かなえから電話がかかってきて、その一言目が「お誕生日おめでとう」ではなく、「できちゃったの!」だったので、仰天したのだった。

できたも何も、それはなんと子供ができた!!という意味だったのである。
要は、できちゃった婚。
優等生でいっつも大学の授業は大講義室の一列目のど真ん中で聞いていて、成績もオールトップレベルだった、あのかなえが。。

私もかなえも男にあまり縁がなく、私たちは独身を貫こうねーと笑い合ってた。

行きつけの新宿の飲み屋街で、何度も「私たちは永遠独身だね!」と何度酒を酌み交わしたことか。

絶句をしたと同時に、このままだと本当に一人ぼっちで独身、気ままに遊べる女友達もいない状態で30を迎えることになる!と危機感を持った私は、決めたのである。

ここから3か月は、少なくとも婚活に集中するぞ!と。

とはいえ、最近はコロナの影響で外にでることもなかなかままならない。
地元から出てきてもうずっと東京都内に住んでいるが、こっちでできた友達なんて皆無。
東京は人は多いけど、こういうときに考えてみれば、人は多いけどすごく孤独だなと感じさせられる。

頼みの綱であるかなえに相談したところ、
その今の彼と出会ったのは、合コンとのこと。
合コンでたくさん何人かで話すなかで人柄がわかって、他の人との距離感や関係づくりも見ていてわかってきて、自然とごはんに行くようになったとのことなのだ。

なるほど!その手があったか~!!と
私自身はこれまでチャレンジすることもさぼってきた合コンなるものにこの際思いきってチャレンジしてみよう!と思ったのである。

飲み屋も営業時間が短くなっていたり、外に出ている人も少ないし、何と言っても私自身が人数多いところでわいわい飲むのはもともと得意なほうではない。

でも、出会いはほしい!!ということで、今はやりのオンライン合コンを自分で企画してみることにした。

そして、今日がその運命の決戦日!!

なんとかして、素敵な男性に出会いたい!
どうにかして、魅力的な男性に出会いたい!

この際、顏がどうとかプロポーションがどうとか、もはや言ってられない。
どんな人でもいいので、まずは出会っていく必要がある、そう思って今日のオンライン合コンをセッティングした。

今はやりのZOOMを駆使したオンライン飲み会はとても好評らしく、何人かの学生時代の友人に声をかけたらこころよく受けてくれ、しかも男友達まで呼んできてくれるという。
こういう時こそ、持つべきものは友人である。

私の「愛」という名前は、母親が決めた。
小さいころからずーっと言われてきたこと。
誰からも愛される人に、だから愛って名前を付けたんだよ、そう私の母親はいっていた。

私の母親は「恵(めぐみ)」という名前で、自分に子供が生まれたら「愛」という名前をつけると決めていたらしい。

愛という名前に見合った人生だったかはよくわからない。
彼氏が出来たとしても、長続きしたことがないし、異性との出会いについては恵まれたほうではなかった。
愛される人になるために、今の私に必要な努力って、どこなんだろうとよく考えてはいるが、その答えはこの29年の人生の中でいまだ見つけられていない。

「愛先輩、今日は直帰ですか?」
オフィスのはす向かいに座る後輩の田口から声をかけられて、私ははっと思いにふけっていたところから現実に引き戻された。

今日もメイクばっちり、大きな二重の目がぱちぱちと瞬きをして、こちらを見ている。
彼女の二重は自然な二重で、くっきりと瞼にきれいなラインが刻まれている。
生まれもって顔立ちが美しい人って限られているけど、本当にいるんだな~と彼女を見ていると思う。
彼女の目線の先にあるのは、私のうしろにある社員一人一人の行き先が表示されたホワイトボード。

ぱっと立ち上がってホワイトボードのところにスタスタと来て、「田口」の欄の横に「直帰」と書いてこちらを振り返った。

「今日の午後の営業、愛先輩も直帰なら私もそうしますね」

そう言い放って席に帰っていく後ろ姿をぼんやり追いかけながら、今日は何かひと波乱ありそうだな、とぼんやりと予感する。

去っていく後ろ姿に見えるMIUMIUの黄色のパンプスがかわいいな、と思ってみていると、今晩のとてもとても大事なミッションを思い出してまたまた気持ちがふわふわしてきた。

今日はオンライン合コンに備えて営業先から直帰してはやめに帰宅し、家の中をきれいに掃除しようと思っていた。
今日の営業周りは、さっき声をかけてきた後輩、田口と一緒だ。
デスク周りをきれいに整えて、田口と一緒にオフィスを出る。

田口はエレベーターを出るなり、私に一発目にいう。
「先輩、今日なんか特別な日なんですか?」

見抜かれた、とどきっとして思わず田口の顏を見たら、田口がにっこりと営業スマイルで言う。
「わかりますよ、オンナの勘ってやつです」

観念してわたしも言った
「そうなの。実はね、今日初めてのオンライン合コンで、どうしたらいいかなって思ってて朝から落ちつかないんだ」

田口はそんな私を見て、優しく笑った。
「オンライン合コン、いいですね。」

仕事では先輩だけれど、こういうことに関してはまったくもってド素人で何にもテクニックもない。

私は思い切って言ってみた。

「あ、あのね、田口ちゃんに一つだけお願いが」

なんですか、と言ってちょうどよくひっかかった信号の手前で立ち止まり、ふわりと田口がこちらを見た。

「一生に一度のお願い!オンライン合コンを成功させるコツを、ぜひ伝授してもらえないかな!!」

田口はあはは、とその華奢な体に似合わず豪快に笑って、
いいですよ、
と言った。

「じゃあ、やっちゃいますか!
スペシャル女子恋活、オンライン飲み会で彼氏か旦那を見つけちゃうぜ作戦」

仰天するのはこちらの番だ。

当日の当日にして、拾う神あり。

この日を境に、田口による、スパルタ婚活塾がはじまることも、
それを機に、私自身がこれまででは想像もつかなかったような変化をとげていくことも、

この時は知る由もない。

 

▼次回:8月14日更新予定
オトナのオンライン飲み会のお作法とは…?

 

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