幹事サバイバル 第4話「飲み会の幹事として大切なこと」

~前回までのあらすじ~
会長の息子が来年度に営業部1課に入社するということで、
飲み会商事営業部の新人歓迎会が人事部の中で
話題になっていた。新人歓迎会の幹事は営業部1課、2課から代表1名を選出し、
営業全体の投票で決められると、さとしは2課の課長から
言い渡された。さらに2課の課長はさとしではなく、1課の木村たけるに
投票すると言うのだ。
【2020年3月 月曜日 PM 12:15 社員食堂】
ユイ「もう~!さとし君、なんて顔してるの!男前が台無しだよ!」
ふいに同期のユイから軽くイジられる。
男前?!おれが?
そんなわけないだろ。
ここ数年間、ろくに彼女もできてないおれなのに。。。
普段ならすぐに言い返すところだが、今はそんな気力もない。
昼休憩の時間となり、おれはいつものようにユイと
社員食堂にきていた。
注文したのはかけそばだ。
なんだか今は食欲がない。
おれはいったいどうしたらいいんだろうか。。。?
ユイ「さとし君ってば!いいかげん何か話してくれるかな?さっきからずっとだまってばっかりで変だよ?」
さとし「…」
ユイ「来年度の営業部の新人歓迎会の話、先輩たちに聞けたの?ねえってば!」
そう、新人歓迎会のことで今朝、おれは課長に呼び出されたんだ。
まさか、たかが新人歓迎会で課長からあんなことを
言われるなんて…
くそっ!考えても考えても、答えがみつからない。
ユイ「ねえってば!」
ユイは人との距離感を適度に保てる子だ。
そのユイがこんなに食い下がってくるなんて、今のさとしが
よほど落ち込んでるように見えたのだろう。
さとしはこのまま答えが見つからないままでいるのが嫌で、
重い口をようやく開いた。
さとし「実は今朝、課長に今のままでは新人歓迎会の幹事には、たけるが選ばれるだろうって言われたんだ。」 「課長は2課のかわいい部下より、1課のたけるを選ぶと言ったんだ。」 「尊敬している課長から見放されたんだ。もうどうしていいかわからない…」
さとしはこれまでたまりに溜まった想いをユイにぶつけた。
普段見せないさとしの様子に戸惑いながらも、
ユイはふと気づいたことをさとしに伝えた。
ユイ「さとし君!課長がどんな想いでたけるくんを選ぶと言ったのかはわからない。」 「けど、課長は“今のままでは“って言ってたんでしょ?まださとし君にもチャンスはあるんじゃないの?」
ユイの言う通りだった。
さとしはたけるを選ぶと言う課長の言葉だけを聞き、
肝心なことが頭に残っていなかったのだ。
ユイは続けてさとしに話しかけた。
ユイ「課長、他にも何か話してくれたんじゃないの?わたしに話してみてよ!何か力になれるかもしれないし。」
さとし「ユイ…」
さとしはユイに何も話さないつもりだった。
ユイだけでない、他の誰にもだ。
さとしは幼少期から人に頼ることをしてこなかった。
してこなかったというより、頼り方を知らなかったのだ。
そんなさとしでも、ユイの想いに気づけないほど
人の気持ちに鈍感ではなかった。
ユイになら頼ってもいいと、さとしは思えた。
さとし「課長は確かに“今のままでは“と言っていた。そして、おれが昨年末の2課の忘年会の幹事をした時のことを話していた。」
【2020年3月 月曜日 AM 9:30 営業部内会議室】
課長「今のままでは2課のみんなは、1課の木村たけるくんに投票するだろう。。。」 「なぜかわかるか?」 「おれからお前に言ってやれるのはたった2つだけだ。お前が昨年末の忘年会で幹事をしたときに選んだ“お店“、そして、“参加費“だ」 「あとは自分で考えろ。朝から時間をとってもらって悪かったな。以上だ。」
忘年会の時の“お店“と“参加費“。
課長はいったい何をおれに伝えたいんだろう…
この時、おれはまだ課長の言葉の意味をまったく
理解できていなかった。
【2020年3月 月曜日 PM 12:40 社員食堂】
ユイ「さすが2課の課長!本当に部下想いな方なんだね♪」 「さとし君、課長からとても期待されてるんじゃない♪」
さとしはユイの言葉をすぐには受け入れられなかった。
課長がおれに期待している!?
だって課長はたけるに投票するって
おれの目の前で言ったんだぞ?!
ユイはさとしに話し続けた。
ユイ「飲み会の幹事にとって大切なことをさとし君に気づいてほしかったんだと思うよ♪」
飲み会の幹事にとって大切なこと…
そうか!
おれが昨年末に幹事をした2課の忘年会では、
先輩たちに楽しんでもらうために欠けていることがあったのか!?
課長、おれにそのことを伝えるために朝時間を作ってくれたのか。
おれにもまだ可能性がある!
できることはきっとある!
さとしが何かに気づきかけた時、後ろから声が聞こえてきた。
たける「よう!さとし、ユイちゃん♪二人も食堂でランチをしていたんだね♪」 「さとし、来年度の新人歓迎会の幹事の座、正々堂々勝負しようじゃないか!楽しもうぜ♪それじゃあな!」 「ユイちゃん、またね!」
ユイ「たける君、またね♪」
たけるは余裕の表情をさとしに見せて立ち去っていった。
内心、自分が新人歓迎会の幹事になれると思っているのだろう。
さとし「余裕でいられるのも今のうちだけだ。たける、みとけよ! 「ユイ!今日はありがとな♪」
“飲み会の幹事にとって大切なこと”
飲み会はただ開けばいいと思っていたさとしにとって、
その考え方はとても新鮮だった。
これまで不安しかなかったさとしの表情が、
次第に明るくなっていくことにユイは気づいていた。
社長が参加する営業部の新人歓迎会まであと3ヶ月…
To be continued…